自然と調和をとりもどすことは、手軽にできる。【ADDress家守インタビュー】鶴巻温泉A邸 山口さん

ADDressの特徴は均質化されていない滞在体験。

観光だけではなく、家守やその土地にいる方々、同じようにさすらう会員同士の偶然の出会いから始まる交流の楽しさ。家々の個性や偶然性を楽しむことこそが、このADDressのサービスを満喫するコツです。

家の個性を形にする、家守の存在。

今回ご紹介するのは「鶴巻温泉A邸」の家守、山口さんです。

鶴巻温泉は神奈川県の中部、秦野市にあり、大山や弘法山といった丹沢山地の麓に位置する静かな温泉郷として知られます。

鶴巻の穴場感に惹きつけられて移住したという山口さん。鶴巻での暮らしは今年26年目を迎えました。いまでは、ADDressの家守以外にも五つの草鞋を履き、いわば“山口修平スタイル”としか言いようのない生き方をしています。

インタビューをする中で見えてきたのは、彼の生き方の根底に流れる、「調和」を大切にする精神性でした。

では果たして、その精神性はどのように芽生えたのでしょうか。そして、どのように行動として現れているのでしょうか。

はじまりは、地域で生きる親父の背中

———— 鶴巻で暮らし始めたきっかけを教えてください。

前職が神奈川県の公務員で、そこに勤務するのに鶴巻がちょうどよくて。

同じ神奈川県でも伊勢原や秦野、厚木など市役所があるくらい大きな街は駅の周りが発展していて土地も高いんだけど、ちょっと外れると安いんだよね。鶴巻は、ほどよく土地の値段も安く、駅から近いところにいい物件もあったから、ここに住むことにしたんだ。

鶴巻ってほんと穴場なのよ。

———— その職場には最近まで勤められてたんですよね。

そうね。お金を稼ぐためって割り切って20年以上働いた。9時-17時で帰れるし、とりあえず仕事に行けばとやかく言われないからね。

———— 仕事以外の時間を確保しやすかったのだと思いますが、何かやられていたことはあったんですか?

学生の頃から続けているボランティアとかね。地域と関わる時間が欲しいなって仕事を始める前から思っていたから。

親父が結構やってたんだよね。ゴミ拾いを行う団体の会長とか、会社以外で地域と関わる活動をいろいろ。そういう姿を自然とリスペクトするようになった。

だって地域で生きてるのに、単純に会社で金を稼ぐだけで人生が終わるって、地域で生きてると言えるのかな、って。ただ家で帰って寝て、近所の人とコミュニケーション取らないのはどうなのかな、とも思った。

あと、高校時代に読んだ本の中の「いまの現代社会は労働量を会社に捧げすぎてる、それは戦時中と変わらないのではないか」という言葉が印象的で、今でも覚えていて。戦時中は若い男の人が戦争に行き、地域に残っているのは女性と子供とお年寄りでしょ。

いまの地域を見ていると、主婦の方がPTAしてたり、学生や仕事を退職したお年寄りがボランティアしてたりするけれど、働き盛りの若い男性たちは全然地域に姿を見せていないじゃないかって。

———— 企業という名の戦争に出ていっているじゃないと。

そう思った時、ふっと親父を見たら、地域に関わってるやん。家でわざわざアピールしないけど、コツコツとやってた。

自分もそのための時間を確保したくて、公務員の道に進んだってのはあったかな。9時-17時は金を稼ぐための時間と割り切って、その後は自由な時間だと思っていた。

だけど、ボランティア仲間を見てるうちに、9時-17時の時間すらも惜しいなとだんだん思ってきたわけ。1日8時間、結構大きいよ、と思って。ボランティア仲間には自営業の人も多くいたから、1日を全部自分の時間にしても生きていけるっていうのが徐々に分かってきたんだよね。

そんなときに、所属してた地域活性化コミュニティを通して、ADDressの家守の話が来た。もうね、是非是非って感じだったね。全国の地域を周って暮らすのってめちゃおもろそうやん。しかも家守を任される鶴巻温泉って俺の大好きなエリアじゃんと思って、前のめりで家守になった。

地球と人の調和への共感も鶴巻の魅力

———— ご自身から見て、鶴巻温泉ってどういう地域ですか? 

鶴巻のいいところはお手軽感と穴場感。

新宿から1時間ちょっとの距離なのに、こんなに自然が豊かでしょ。自然豊かなところは他にもあるけれど、こんなにすぐ行けるお手軽な地域はないでしょって思ってる。

それに物価が安いから、食べるのも過ごすのもコスパが良い。

それでいながら、あんまり知られていないっていうのがまたいいところで。これが観光地化されていると雰囲気も変わってくるとは思うんだけど、そうではないからプライベート感がある。

そういう、素朴さがいいなと思っていて。

———— 最初自分も、観光客で賑わうような温泉街を想像していたら、まったく違いました。とても閑静で、暮らすための場所だな、と。

他にも鶴巻には、いわゆるスピリチュアルなとこもあると思っていて。地球と調和するという精神性を持つ人が周りに結構いるのね。そういう部分に自分もかなり共感してて。

具体的には、環境への意識を高く持つことや、食べ物にも気を遣うこと、できるなら自分で農作業をやること。そうやって自然の中で五感が研ぎ澄まされていくことで、感性が磨かれて、地球と人が調和していくんだよね。

地域に根ざす活動はゴミ拾いも、畑管理も、ポッドキャストも

———— 調和を大切にする精神はいまの山口さんの活動に、じかに繋がっている気がします。もう少し詳しくお伺いできますか?

地域との調和ってことでいえば、自分で主催して、ごみ拾い活動をやっている。ときにはADDressの会員さんと一緒にやったり。自治会の役員として夜中にパトロールしたりもしたな。鶴巻はいい子たちばっかりだから、不良なんていなかったけどね。

他にも梅林や畑の管理もしてるね。

———— 以前梅林で、梅の木の剪定と実の収穫を手伝わせていただきましたね。自然とじかに触れ合う機会になりました。

そうだね。梅林は地主さんから30本預かっていて。初めて会ったときに、農作業とか興味があると言ったら、耕作放棄されてる梅林があるから任せるわ、って言ってくれた。

だけど、ひとりでは難しいってわかっていたから、実務作業できる人を集めて、その人たちを自分がサポートする形で進めている。いまは30本のうち23本は自分で管理を行って、残りの7本は仲間に任せて各自で収穫イベントとかをやってもらったりしてるって感じだね。

———— 畑も同じような形ですか?

うん。自分の直轄のところでは膨大なサツマイモを育てて、他の人たちがトマトとかキュウリとかを育ててる。たまに、おすそわけをくれたりするよ。

————— 鶴巻A邸にも、ときおり袋一杯の野菜が届いてますけど、あれは畑仲間から?

それもあるし、大家さんからいただいたりね。

————— 他にも地域との関わりでいえば、最近ポッドキャストを始められましたよね。

そうなんだよ。ADDress会員の市原さんと一緒に鶴巻の時間っていうポッドキャストをやることになって。この企画は鶴巻で活動しているおもろい人を紹介して、鶴巻の魅力を外に伝えるというもの。しかも、鶴巻で暮らす人も地元のおもろい人を知らなかったりするから、地域の魅力再発見にもなるかなって考えています。ゲストの候補者はもう12人くらい決まってる。

是非遊びに来てよ。公開収録してるからさ。

#4 移住歴13年。でんぼさんが考える鶴巻の魅力とは?

鶴巻に来たら、温泉や「闇市」へ

————— 鶴巻に来るときはポッドキャストを聴いて、気になるゲストに直接会いに行くのもおもしろそうですね。他にも、滞在中にオススメのスポットはありますか?

サマーシティという喫茶店はオススメ。牛スジ肉のドテ煮カレーが美味しいです。そこのおかみさんと娘さんも素敵な方で。ADDressで来ました、って言えば伝わると思う。

温泉行くなら、一番近いのは弘法の里湯。秦野市営の温泉で、駅から近い。こじんまりとしてて、安く入れる。

一方で、陣屋旅館の温泉は旅館のところだから格式ある雰囲気。温泉だけの利用はできないから、レストランでの食事もするならという感じかな。他にも隣駅だけどさざんかもオススメです。

————— さざんかは自分も一度利用しましたが、現代的かつ広くて満足でした。露天風呂から見える山が最高で。しかも、アプリダウンロードしたら初回入館料無料なんですよね。

あと、「魚真」っていう魚屋は超オススメ。看板もろくに出てないし、店内暗いし、店の表側は八百屋だから奥行かないと魚売ってるのがわからないけど、値段が驚くほど安いのね。しかも新鮮。

————— それってもしかして通称「闇市」と呼ばれている店のことですか…?

そうそう。昔、鶴巻A邸の固定ドミトリーに入ってた人がそう名付けたんだよね。安くて、ちょっと怪しいから「闇市」。ADDressの鶴巻拠点でしか通じないけどね。

鶴巻A邸は手軽な避難所にちょうどいい

————— 今後、鶴巻A邸をどういう場所にしていきたいと考えてますか?

誰かのハブになるような拠点にしたいかなあ。安らぎだったり、珍しいものがあったりするから、鶴巻に来て、またどこかに旅立つ。ゲームで行ったら必ず立ち寄る拠点みたいな場所だね。

———— いいですね。みんなが集うハブ。

さらに言うと、長く滞在してゆっくり休憩してもらったり、節目ごとに何度か訪れてほしいね。通りすがりじゃなくてね。

言わば、都会からの避難所。遠くに行けばもっとどっぷり避難できるところはあると思うけど、ここだともっと手軽に緊急避難できる。

鶴巻に来て、自然との調和がある暮らしを味わって、少しでも何か回復してくれたらいいな。

———— そういう場所が自分にとって1つ2つあるだけで、人生の楽さみたいなものが変わってきますよね。お話ありがとうございました。

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仏教哲学の大家 鈴木大拙が、自身の著書『禅』の中で悟りを説明する箇所に、次のような一節があります。

「問う者と問いとの分離から、問題が起ってくるのである。…問いを解くとは、それと一つになることである。」

私たちは日々、あらゆる問題に立ち向かっています。しかし、その問題はまさに「立ち向かう」という言葉遣いから明らかなように、私たちの外部に位置づけられています。理性的な自我という主体と、そこから分離された自然という客体という構図があるのです。

解決のために「問いと一つになる」。ここに、ひとりの人物が重なるのは私だけでしょうか。その人物というのは、調和を大切にする山口さんです。地域や地球を客観的に見るのではなく、ボランティアや農作業を通じてそれらの一員として生きるその姿です。

しかし、調和の先に真の解決があるのだとしても、皆が忙しい日々の中で調和を意識することは難しいはず。だからこそ、たまに鶴巻を訪れて、山口さんに会いに行く暮らしはなかなかよいものかもしれません。

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この記事を書いた人

佐伯 康太

25歳・神奈川県横浜市出身。 旅をしながら、作家・ライターと選書家を志して活動してます。 ADDressは、地域や日本のことを直に見て知らなければならないと考え、2021年9月より利用。道に迷っても「どこかには着くから」と地図を見たがらない困った癖があります。