地元の商店街とゲストをつなぐ。夢は日韓の架け橋【ADDress家守インタビュー】神戸A邸 朴さん

ADDressの特徴は均質化されていない滞在体験。

観光だけではなく、家守やその土地にいる方々、同じようにさすらう会員同士の偶然の出会いから始まる交流の楽しさ。

家々の個性や偶然性を楽しむことこそが、このADDressのサービスを満喫するコツです。

家の個性を形にする、家守の存在。

今回ご紹介するのは、神戸A邸の朴(パク)さんです。

三宮から一駅の灘駅から徒歩5分。かつては地元に愛される診療所だった場所に朴さんがゲストハウス萬家(MAYA)を2017年夏にオープンしました。神戸A邸としてADDressとの提携が始まったのは2020年6月からです。

灘に開くと決めてから、粘り強く物件を見つけて開業するまでに2年。その背景には、交流を通して地域を元気にしたいという熱い思いがありました。

高校2年の日韓学生交流で、個人のつながりの大切さを実感した

生まれ育った韓国ではなく、日本でゲストハウスをやりたいと思ったきっかけは、高校2年のときに日韓学生交流で日本を訪れたことでした。

第二外国語として日本語を学んでおり、先生が日韓交流を担当されていたのです。

当時の韓国の報道は日本に対して偏った見方で伝えており、偏見がなかったと言えば嘘になります。

私にとっては初めての海外でしたが、実際に日本を訪れて現地の方と交流したことで親切にしてもらい、自分なりの価値観ができました。

たった数日の滞在でしたが親しい友人もでき、その後も文通を続けて、大学で日本語教育を専攻するに至りました。

報道での印象を鵜呑みにするのではなく、個人と個人のつながりを作っていく。

友人ができれば、「人種」や「国」として見るよりも先に、「友人」を思いながら、お互いの国を理解しようとするのです。

日韓交流会で、それを身をもって体験しました。

国を超えて友人になれる場所を作りたい。ゲストハウスを知ったとき、まさにそのような場所だと思いました。大学を出てまずは日本の部品メーカーに就職して4年ほど勤めた後、いよいよゲストハウスの準備を始めました。

地元の人とのつながりを作るのは、観光地ではなく商店街

運営の修行に半年間、「ゲストハウス品川宿」(品川A邸)へ。そこで地元の商店街と連携するさまざまな取り組みも吸収しました。

開業する場所は、妻の実家にも近い神戸近辺で探していました。

地元の人とつなぐことができる場所と考えたときに、観光地ではなく、商店街の近くで探そうと思い、いくつもの商店街を回っていたんです。

ポイントは、活気があり、フランチャイズではなく個人の商店が集まっていること。

水道筋商店街に来たときに、まさに探していた土地だと思いましたね。

こだわった条件は、商店街から徒歩10分以内の場所であること。地元の人とゲストとのつながりを作るために、気軽に行ける近さが必要でした。

そこからはまず地元に溶け込もうと、商店街の喫茶店でアルバイトをし、周囲のお店に顔を出して話をしていきました。

イベントを手伝ったりするうちに商店街の話し合いにも呼ばれるようになりました。

物件自体はいくつも見たのですが、当時は商店街に外国人がいることも少なく、抵抗があったのかもしれません。「ゲストハウス」というと不安がられました。

2年経ったころに知り合いを通して今の場所が空くと聞き、手紙や電話でアプローチをしました。

それから半年後、オーナーさんの理解を得て物件が決まりました。

賑やかな交流も、一人の時間も。選べるように空間を設計した

リノベーションはゲストハウスMAYAの向かいにある「TEAMクラプトン」と一緒にDIYで施工しました。

ゲストハウスは平等な交流ができる場所。交流しやすいような空間作りには工夫をしました。

例えば、ここはラウンジが広いので、ゲストが不安にならず、すぐに声がかけられるようにエントランスからすぐの場所にスタッフが迎えるカウンターを置いています。

さらにダイニングテーブルもスタッフカウンターも近くに置いており、話しかけられる距離にしています。

ゲストの快適な滞在を手助けするのはスタッフの役割なので、滞在の目的や、やりたいことなどもお聞きするようにしていますね。

それに合った地元の情報をお伝えしています。

一方、交流に疲れて一人で作業したいな、と感じるときもあると思います。

ラウンジの中には緩やかに閉じたスペースもあり、籠れるようにもなっています。

また、屋上にはデッキチェアを置いており、眼下を走る阪急電車や王子公園の観覧車、摩耶山を眺めることもできます。

その日の気分でゲストやスタッフと交流したり、景色を眺めたり、本を読んだり、ギターを弾いてみたり。

思い思いのくつろぎ方ができる共有スペースです。

個室にはデスク、チェア、ランプのほか、チェストもあります。

線路のそばなので電車の音が気になる方には耳栓をご用意しています。

地元の良さを伝えたい。その思いから、自作のマップも作りました。

水道筋商店街のお店や摩耶山から海まで、灘地区のおすすめをご紹介しています。

ぜひ、この町にしかないものを体験していただきたいですね。

ADDressでさまざまな価値観に出会う

ADDress会員は交流好きな方が多く、ゲストハウスでの交流を楽しんでくださいます。

面白い方にも出会いました。

例えば、カレーのスパイスをスーツケース一杯に入れて移動している方。行く先々で本格的なスパイスカレーを作ってくれるようです。

また、大学生の利用も見かけますね。

コロナになってから授業がオンラインで、交流が少ないことに危機感を感じているのではないでしょうか。

ADDressでホッピングしていると様々な世代や職業の社会人に会えますし、話を聞けるので、大学生にとっては良い選択肢だと思います。

灘のおすすめ。水道筋商店街に摩耶山、酒蔵に温泉。

灘に来たらぜひ行っていただきたいスポットをご紹介します。

①水道橋商店街

まず行っていただきたいのは水道筋商店街です。神戸A邸から徒歩10分程度。

商店街の下には、神戸で一番最初にできた水道管が走っているんですよ。だから「水道筋」なのです。

「つまみ食いツアー」として、1~2時間程度で商店街をご案内するツアーも開催しています。毎週月曜日開催(希望者3人以上で催行)

一部をご紹介しますね。

お豆腐屋さんの藤本食品。コップに並々注がれる豆乳をその場で飲めます。濃厚でほんのり甘い豆乳をぜひどうぞ。

ロシアの本格的なピロシキ。キャベツが入り、トマト味。アツアツをいただけます。

藤原八百屋店。冗談好きな店主さんはトマト嫌いだとか。MAYA5周年を飾る週末のBBQイベントのことを軽くお知らせしに来ました。

昭和の雰囲気漂う乗り物。今でも動く現役です。ハトと戦車なので、「戦争と平和」と呼ばれています。

②摩耶山

日本三大夜景のひとつ、摩耶山。山頂からは神戸の海が一望できます。

神戸A邸から徒歩3分ほどの場所に「坂バス」のバス停があり、摩耶山に登るケーブルカー&ロープウェイの駅まではバスで10分程度。

ケーブルカーとロープウェイを5分ずつ乗り継ぐと摩耶山の山頂に着き、掬星台(きくせいだい)と呼ばれる見晴台から美しい景色を見ることができます。

摩耶山には廃墟の女王と呼ばれる「旧摩耶観光ホテル」があります。

令和3年に、廃墟としては初めて国の登録有形文化財に指定されました。

普段は近づけないのですが、月に1回「旧摩耶観光ホテル」を巡るツアーも開催しています。

マヤカツ、と言われる「摩耶山でのイベント」では、「写真教室」や「ヨガ」、「下山部」などさまざまなイベントが企画されています。

私自身も韓国語を教えるイベントを開催していますよ。韓国料理のコックが来て腕をふるってくれます。

飛び入り参加がOKなイベントもあるので、ぜひ行く前にチェックしてみてくださいね。

③酒蔵

日本一の酒どころと言われる灘には「灘五郷」と言われる酒蔵の集まりがあり、

特に灘地域では「沢の鶴」「白鶴」「菊正宗」などが近くの酒蔵になります。

江戸時代、灘から関東に運ばれるお酒は京都から江戸に下るので「下り酒」と呼ばれて重宝がられたそうです。

ほろ酔いになるくらい、試飲もできますよ。お酒好きな方はぜひ。

灘温泉

銭湯価格で温泉に入れます。ほぼ加温していないため、ぬるめの炭酸泉は、長時間入っても湯あたりしない快適さ。

摩耶山の帰りによっていかれる方も多いです。朝5時~深夜0時まで営業しています。

「MAYA」を通して日韓の架け橋になりたい

2022年7月には、MAYAの近くにシェアハウスをオープンしました。何度か灘を訪れたゲストが町を好きになり、移住を希望する人が増えたためです。移住の話を聞いた方は、今までで30人以上はいますね。

再来訪して滞在をする関係人口や、移住者が増えてくると町や商店街の経済が回って活気が出てくるので嬉しいです。

今後の夢としては、韓国に「MAYA」を作りたいと思っています。

同じように韓国で商店街や市場巡りを今度は日本人のゲストにご紹介して、韓国の地域の良さを知ってもらいたい。

そして日本と韓国のMAYAを行き来するゲストが出てきたとき、本当の意味で日本と韓国の小さな架け橋を実現することになると思うのです。いちおう佐別当さんにはソウルA邸は是非そこにしましょうとお願いしておきました(笑)

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朴さんが「ゲストハウス品川宿」(品川A邸)で修行したと聞いて納得でした。神戸A邸の、地元商店街に詳しくて気さくに話しかけてくれるスタッフは、品川に滞在したときを思い起こすような雰囲気でした。

「街のここがおすすめですよ」「〇分くらいで行けるから間に合いますよ」と親切に教えてくれるスタッフは頼りになる友人のよう。

ゲストと話してると「いつもここが定宿」「何度も来ている」とリピーターが多いのも頷けます。

滞在時には神社でお祭りがあり、ゲストとスタッフとが誘い合って繰り出していました。

まさに朴さんが目指す「この土地にしかない体験」を満喫できる滞在でした。

水道筋商店街に行けば「MAYAパス」が通じるとか。

「MAYAに泊まっています」と伝えるだけで、「あぁ、よく来たね」とお店の人が一段と歓迎してくれます。

それも日々MAYAスタッフが商店街に足を運んで細やかに関係性を築いているから。

朴さんがゲストハウスの物件を探していた2年間、一緒に探すのを手伝ったという漬物や「たけちょう」の女将さん。

「愛嬌があって、懐にはいってきて。一生懸命だから応援したくなっちゃうのよね。」

まるで母親のような眼差しで、朴さんのことを教えてくれました。

この記事を書いた人

高石典子

2020年8月~2年間ADDress会員として、月の半分はADDressの家を巡り、半分は自宅で過ごす。HR業界が長く、キャリア支援&ライターの仕事に従事。高校・大学生の2人の子の母でADDress利用時は母親業もフルリモート対応。喫茶店での読書と銭湯後の一杯が至福のひととき。インタビュー執筆では「その人にしかない魅力を引き出すこと」をモットーにしています。