ADDressの特徴は均質化されていない滞在体験。
観光だけではなく、家守やその土地にいる方々、同じようにさすらう会員同士の偶然の出会いから始まる交流の楽しさ。
家々の個性や偶然性を楽しむことこそが、このADDressのサービスを満喫するコツです。
家の個性を形にする、家守の存在。
今回ご紹介するのは奈良県の「吉野A邸」の家守、南さんです。
平安時代の古今和歌集に詠われるほど有名な「吉野の桜」は、西行法師や松尾芭蕉にも愛され、春には見事な桜の山々の風景が見られます。
歴史的にも楠木正成が兵を挙げたり、修験道が開かれるなどゆかりが感じられる町。
しかし、南さんは「吉野の魅力は、桜や歴史だけではなく、そこに住む人々です」と語ります。
吉野で生まれ、吉野育ちで地元を愛し、工務店を営む傍らで家守を務める南さん。
滞在者のレビューも「心が広く、懐が深い南さん」「気さくな南さん」「気を配ってくださって、地域の方がと繋がりやすいか環境を作ってくださる」と、南さんへのコメントが一言添えられていることが多く、その存在の大きさが伺えます。
ADDressと南さんとの出会いはどのようなものだったのでしょうか。
目次
ADDressの「関係人口を作り出す」という想いに共感
2015年10月からゲストハウス兼移住体験スペース「三奇楼」を運営していました。
工務店を親から引き継ぎ、空き家の利活用として三奇楼のリニューアルを手がけました。
ゲストハウスにしたのは、吉野にゆかりのある人が里帰りや、戻ってこられる場所を作りたいと思っていたから。当時は吉野にゲストハウスはほぼなく、2軒目くらいでした。
始めてみるとリピーターとして来てくださるお客さんも多く、「お帰り」と言える関係が嬉しかったですね。
ADDressを知ったのは2018年にADDress代表の佐別当さんがシェアリングエコノミー協会のセミナーを吉野町で開催されたとき。ADDressの構想があり、クラウドファンディングを行っていると聞いたのがきっかけでした。観光だけではなく地域の人と普段の生活の中で交流して再来訪を促す「関係人口」を作り出す、という考え方がとてもいいなと思ったんです。
今の吉野B邸をADDressで利用できないかと問い合わせをしたのですが、改修が必要で時間がかかりそうだと。
そもそも吉野に会員が来てくれるか?を確かめたいこともあり、先にこのゲストハウス「三奇楼」の離れの1部屋をお試しで始めてみましょうとADDressとしてオープンしたのが2020年12月です。
ADDressで来訪する会員はゲストハウスと異なって旅が目的ではないことも多いので、お仕事をしながら長期滞在してくださったり、何度もリピートしてくださったり、交流していても気持ちの良い方が多いですね。
マナーも良く、出るときに綺麗にしてくれます。
吉野の杉や檜を使った肌ざわりのよい床、窓から見える吉野川と山の景色を楽しんでほしい
この家屋は、元料亭旅館だったところを改装したものです。
床材には吉野の杉や檜を使っています。吉野の杉は寒い時期に育ち、水も綺麗なので木目も細かいんですよ。
肌ざわりが良いので、スリッパをはかずに素足で木の感覚を楽しんでいる方もいらっしゃいます。
吉野はもともと林業が盛んで、節の少ない良質な、色艶のよい木材が取れるんです。
ダイニングも大きな杉の一枚板を使っています。
広い交流スペースと窓から外の景色も家の中のおすすめポイントです。
窓側にカウンターテーブルを設置しており、窓の外には吉野川と山が見えます。
みなさん窓から見える景色や、鳥の声をきいて和んでいるようです。
外に出れば川遊びもできますし、川辺ではBBQもできますよ。
川に山にと、アウトドアでの遊びも楽しめます。
星空博士と出会い、「星空部」を立ち上げた
吉野は桜や歴史で有名ですが、私は機会があれば吉野の人たちと交流してほしいですね。高齢化が進んでいるので60代以降が多いのですが、それだけに若い方が来ると嬉しく思うのか、喜んで温かくお迎えしています。
ADDressの会員でも何度も来てくださる方もいらっしゃって、地元の人と自然と交流が生まれています。地元の人も「住んでほしい」とは言いにくいけど、「またおいで」「おかえり」という関係性ができてくる。それが嬉しいですね。
三奇楼に隣接する蔵では、金曜日にモーニング&ランチ&バーを開いています。
ゲロゲロさんという、子供たちに絵を教えていた絵描きさんが奥さんと一緒に開いてくれています。地元の人もお客さんとして訪れるので、ADDress会員との交流が生まれています。
そのバーがきっかけで立ち上がった活動に「三奇楼星空同好会」があります。
大阪市立科学館の学芸員である飯山さんがこの町に移住されてきて、バーに顔を出してくれたんです。「望遠鏡で星空を見ませんか?」とその場で声を掛けてくれました。
飯山さんはプラネタリウムの解説もされている、まさに星空博士。
大阪の空では明るくて星が見えないと、吉野まで移住されてきたそうです。
三奇楼の屋上は広いデッキになっているので望遠鏡で星空を見るにはちょうどよく、定期的に星を見ましょう、となりました。
ガチすぎて、「夜中の3時に屋上デッキに集合!」とかもありますけどね。
ADDressの会員は全国各地をホッピングしているので、各地にいる会員で同じ空を見上げたら面白いのではないかと思い、ADDressでも「星空部」を立ち上げました。
最近でも大変珍しい機会があったので、皆さんにお知らせしたくて投稿しました。(以下はFacebookの投稿文です)
2022.06.24早起きは三文の徳といいますが、本当に今しか見れない現象が起こっています。昨日三奇楼星空部メンバーの写真ですが、なんと❣️東の空に月から土星まで一直線に並んでいますよくよく考えるとそれぞれ太陽の周り(月は地球の周りですが)を回っている星たちが一列に並ぶって本当にたまたま(奇跡)なんでしょうね!各拠点で夜空を見上げるきっかけになれば幸いです |
私自身、星のことは特に詳しくもなかったのですが、星空博士の話を聞いていると知識がついてくるので、だんだん星空を見上げるのが楽しくなってくるんですね。
吉野の夜は暗いので本当によく星が見えます。天の川も見えますよ。
お洒落なコワーキングスペースに、ぜひ味わってほしい吉野の名店
吉野の周辺のおすすめスポットとしては、
2022年4月にできたコワーキングスペースの「YOSHINO GATEWAY」。
お洒落な空間で、ワーケーションを楽しめます。ドロップインも一日1000円で利用できます。
「葛屋 中井春風堂」は金峯山寺の目の前にある葛屋さん。
吉野本葛と水だけを使った、「最高の本葛を味わうための」賞味期限が10分の2品は、ここでしか味わえません。開店は朝10時ですが、予約は9時半から店頭でのみ受け付けています。人気のお店なので、予約をおすすめしています。
「林とうふ店」の豆腐が食べられるお店、豆富茶屋 林は金峯山寺への道沿いにあります。手作りの豆腐をメインとした定食やお揚げを使った麺類、スイーツなども食べられますよ。
「手打ちそば矢的庵(やまとあん)」は善福寺に行く手前にあり、古民家を改装した落ち着いた雰囲気のお店で、吉野の名水で作った蕎麦つゆと八ヶ岳産の蕎麦を食べられます。
天ぷらや料理に使う素材は奈良県産のもの。春は山菜も味わえます。
「こばし」の焼き餅も会員に人気です。焼きたてのものも食べられますよ。
地方発送していないので、吉野にお越しの際にぜひお試しください。
縁の下の力持ちとして、吉野に来る人の夢の実現をお手伝いしたい
(ADDressのDIY部にも入っている南さん。リフォームはお手のもの)
吉野町は高齢化が進んでいて、お話したように若い世代が少ないです。
お店や事業も後継者がいなくて畳むケースも出ていますが、私としてはこの吉野の環境や良さを次の世代に受け継いでいきたいと考えています。
地元に危機感が足りないのが課題だと思うんです。諦めているというか。
だから、ゲストハウスやADDressと提携するのも、地域に新しい風を吹き込んでくれることを期待しています。
私自身は町を動かすような立場でもないので、自分でできる小さなことからですが、吉野に来た人たちの夢の実現を縁の下の力持ちとしてお手伝いができたらいいなと思っています。
例えば、お店を開きたいという人がいたら内装をお手伝いして開店のサポートをするとか。
吉野の町に来たら、「この町いいなぁ、居心地がいいなぁ。」と感じてもらえて、「ここで何かやりたい」と思い、その小さな取り組みが増えていくといい。点が線となってつながり、町全体が元気になっていくのではと思うんですよね。
次の世代に吉野の良さを伝えていきたい。そんな思いで来訪者を迎えています。
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「何もないので、引き出してくださいね」取材前にそう言っていた南さんは、控え目な印象ながら、オンラインでの取材中も来訪者と親しく言葉を交わしたり、リピーターの会員から話しかけられるなど、細やかに気配りされている様子が感じられる方でした。
吉野の未来を思い、新しい風を呼び込もうとコツコツとできるところから始める南さん。
「縁の下の力持ち」の言葉がまさにぴったり当てはまるような、静かに家を守る方でした。
個人的には「星空部」の部員として南さんを始めとした投稿を拝見していますが、「全国津々浦々にいるADDress会員が同じ日に夜空を見上げて星を眺める」というコンセプトが好きで、各地方の会員からアップされる夜空の写真を楽しく眺めています。
吉野A邸には星空を眺めるのにぴったりな広いデッキが屋上にあります。
「来月は流星群が見られますよ」
南さんのそんな投稿を見たら、そろそろ吉野に行かなきゃ、という気分になりそうです。