築100年を超える京町家で、魂が蘇る体験を【ADDress家守インタビュー】聖護院A邸 マヤコさん

ADDressの特徴は均質化されていない滞在体験。

観光だけではなく、家守やその土地にいる方々、同じようにさすらう会員同士の偶然の出会いから始まる交流の楽しさ。

家々の個性や偶然性を楽しむことこそが、このADDressのサービスを満喫するコツです。


家の個性を形にする、家守の存在。

今回は、タイムスリップしたような京町家のゲストハウス「月と」を運営し、ADDressとも提携して家守をしている山内マヤコさんをご紹介します。
※聖護院A邸は2023年1月末でADDressと連携解消して、マヤコさんは家守を退任しています。

かつては女性誌「エル・ジャポン」のデジタル版「ELLE ONLINE」の編集長としてデジタルメディアを推進し、日々ハードワークをこなしていたマヤコさん。

どのようなきっかけでゲストハウスを始めたのでしょうか。

(聖護院A邸には掛け軸、絵が多く飾られています)

元祖家守の祖母、元祖多拠点生活の父

ADDressと提携をスタートしたのは2020年12月。共通の知人を介してADDressの方に興味を持っていただきました。

気に入っていただいた理由は、この場所が私の実家でもあり、家のルーツがあること。

この町家はもともと旅館として曽祖父が建て他人に貸していました。それを祖父母が晩年に終の棲家として住むようになり、広かったため下宿として貸し出していました。

私は祖父母の住むこの家へ春休みや夏休みに遊びに来ており、学生や留学生、芸術家がこの家に集まって交流していたことを覚えています。

祖母の周りにはいつも人が集まっていました。まさに家守のような存在です。

お世話らしいことはしておりませんでしたが、話していて楽しい、明るい人でした。

自然発生的にお食事会になったり、いつのまにか大勢が集まっていたり。祖母の自然体の様子が、人を惹きつけたのかもしれません。

一方父は放送局で働いていたため取材で地方も含めて国内外を巡っていました。家庭には不在のことも多く、いわゆる多拠点生活を地で行く人でしたね。

ADDressの考え方を聞いたとき、身近にそれを実践している人がいたので、ごく自然なこととして受け取りました。

(アルバムをめくりながら当時の様子を語ってくれたマヤコさん)

「人々の交流する場をつくりたい」父の想いを受け継いで

祖父母の後に父がシェアハウスとして管理していましたが、父が急逝したため、この場所の整理が必要になりました。

その片付けをするのは私しかいない。土曜の始発で京都に来て終電で東京に帰るまで、一日中遺品の整理をしていました。

この家は芸術家が訪れていたこともあり、古美術やアートなども数多く残されていたのです。

一日中片付けをしているなか、ふと気が抜けた瞬間に、シーンと何も音がしないことに気づきました。

誰もいない、何も音がしない空間で、突然悲しみが込み上げてきました。

父の死が急だったこともあり、私の中で家族の思い出を消化できていなかったのだと思います。

そのとき、父が「サロンを作りたい」と言っていたことを思い出しました。

人が出会って交流して新しい人間関係を紡いでいくような場を作ろうと。一緒にやろう、と言っていたんです。手伝ってほしいと言われました。

私はやると決めたらとことんやる性分で、気付いたら会社を辞めていました。

最初はこの町家の運営を自分でやるのではなく、人に任せようと思っていました。でも年月をかけて人に声を掛ける中で、まずは自分がやって「イズム(主義)」を根付かせる必要があると思いました。「イズム」は私がこういう空間を作りたい、という主義のようなものですね。

飾らずに、心からコミュニケーションできるような場を

「月と」は、ゲストが飾らずに、自然に心からコミュニケーションできるような場でありたいと思っています。

社交で気を使って疲れてしまうのではなく、集う人が向き合い話し合って豊かな時間を過ごし、翌朝には元気になるような場となるように。

私自身も大学を卒業してからずっと、激しく働いていて、一人で自分を見つめ直したくなる瞬間がたびたびありました。

仕事時は仮面を作って人と接しますが、それが長く続くと自分が削れてしまうように感じるのです。

だから、自分を取り戻せる場がほしいと思っていました。京都に来るのもそれが一つの目的だったかもしれません。

歴史のある神聖な街で、静かに自分と向き合って回復していく。「月と」がその場になれたら嬉しいですね。

不便さが自分を鍛える

(縁側にある紅葉。季節を感じることができます)

日本の家は、もともとは木と紙と土で出来ています。だから、夏の暑さや冬の寒さも感じやすい。

滞在した方が言っていたのですが、

「東京では眠れないのに、この家ではぐっすり眠れる。なぜかと考えたが、家が呼吸しているからではないか」

と。密閉性は少ないですが、木と紙と土という素材が外界の様子を伝えてくれるのですね。

寒暖の差が激しい時期は、一日の中でも四季があるのではと思うこともあります。

すると、状況に合わせて順応するために創意工夫をするようになります。

例えば暑い日なら涼しいガラス器を置いたり。肌寒さを感じたらストールで温度調節したり。

建物の造りとしても階段が急だったり、通路に段差があったりしますが、

そのような不便があるから慎重に行動したり、工夫してクリエイティビティを発揮できたりすると思います。

季節そのものを楽しんでもらう工夫もしています。

夏なら縁側でリモートワークできるようにしたり、冬なら炬燵や七輪を出して暖をとるなど。

四季を感じて過ごせるような家です。

掛け軸や絵、人形など、当時から置かれていた古美術も、いくつかはそのまま飾っています。

関心の高い方から、私が教えてもらうこともあるくらいです。

古美術やアートが好きな方にとってはワクワクするような空間になっているのではないでしょうか。

(左の絵はマヤコさんのおばあさまの肖像。当時の帯や美術品なども飾られています)

感覚的なものを大事にする

滞在した方が「月と」で元気になって出てもらえるように、魂が蘇るような場にしたいと考えています。

そのためには、コミュニケーションのときの距離感を大事にしています。

一方的ではなく、相手に合わせて「呼応」するように。

何故か、私は滞在した方から打ち明け話をされることも多いんですよ。

「話すつもりなかったのに、思わずマヤコさんに話しちゃった」と言われることもあります。私が自然体で、構えずに存在しているからかもしれません。

場作りとして意識しているのは、みなさんがリラックスできるように感覚的なものを大事にすること。香り、音、目に見えるものなど、五感を刺激するようにしています。

文化施設も多い左京区

(鴨川の桜。散歩が気持ち良い道です)

ここ聖護院は京都の中でもアカデミックエリアと呼ばれる左京区にあり、

文化や芸術を楽しめたり、学生の多い地域ならではのお手頃な料理が食べられたりします。

近くには平安神宮や京セラ美術館、動物園もあります。東京でいえば上野のような地域でしょうか。

昔ながらの雰囲気を残す銭湯もおすすめです。徒歩圏内に平安湯と銀座湯がありますよ。

天気がよい朝は、30分ほど散策してパワースポットである下賀茂神社を訪れたり、その帰りに鴨川沿いにある出町柳駅の近くでパンを買って河辺で食べるのも気持ちいいと思います。

人の心の根っこに残ることをしたい

これからの夢といえば、社会貢献です。未来へつながることをしたい。

「月と寺子屋」という活動をしており、多くの世代の方が集まって学んだり、手を動かして楽しめるイベントを催しています。

未来に続く感性を養っていく。その活動を広げていきたいですね。

落語会を開いたり、ハンドメイドのワークショップを実施したり、学生さんがカフェを営める日を作ったり。

活動の発端としては、東日本大震災のときに東北にボランティアに行ったときの経験があります。私はもともと茶道を習っていたので、心に安らぎをもたらしたり、元気になれるようにお茶をたてたり、お菓子のワークショップを開きました。

被災者の方々にとても喜ばれて、自分が持っているものでも人を喜ばせたり、元気づけることができると気づきました。

この「月と」でもそんな活動を続けていきたいと考えています。

(手作りのものが好きというマヤコさん。ピアスやお洋服も手作りのもの)

父も、祖母のときもそうですけど、亡くなって10年経っても当時のお知り合いの方が訪ねてきてくださったりするんです。その方々が私の活動も応援くださったりして。

何年経っても覚えている。そういった、人の心の根っこに残ることをしたいですね。

ADDressで、「月と」があるから会員になったという方もいるんですよ。

何かが得られることを信じて来てくださっているから、その期待には応えていきたいです。

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実は2月に足の骨折をされたマヤコさん。

「気合だけで生きてきたけど、気がついたら体がついていかなくなった」と言いますが、怪我をされたマヤコさんの周りには家守の仕事をサポートする人たちが自然に集まっていました。

マヤコさんへの相談が自然にぽつぽつと出てくる場面もあり。

素直な疑問を発したり、心の荷物を降ろせる気持ちになる人が多いのかもしれません。

「月と」のロゴは、マヤコさん自身が構想したそうです。

三日月ではなく、満月。円満に、ご縁を大事に、という意味を込めて。

静かに自分と向き合って回復したいとき。

「月と」を訪れてみてはいかがですか?

この記事を書いた人

高石典子

2020年8月よりADDress会員。月の半分はADDressの家を巡り、半分は自宅で過ごす。中学・大学生の2人の子の母。フルリモートで仕事をしており、母親業もリモート化できるのではと実験中。仕事はキャリアカウンセラー&ライター。喫茶店での読書と銭湯後の一杯が至福のひととき。得意技は「ポジティブ変換」。