「何もない」のが津和野の魅力【ADDress家守インタビュー】津和野A邸 漆谷さん

ADDressの特徴は均質化されていない滞在体験。
観光だけではなく、家守やその土地にいる方々、同じようにさすらう会員同士の偶然の出会いから始まる交流の楽しさ。
家々の個性や偶然性を楽しむことこそが、このADDressのサービスを満喫するコツです。
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島根県津和野町にある津和野A邸

家の個性を形にする、家守の存在。
今回ご紹介するのは「山陰の小京都」と言われる島根県津和野町にある津和野A邸の家守、漆谷さんです。

ADDressユーザー歴1年、月に10日はADDressの家を利用するライターの高石が、
他の会員からも聞いた「津和野は自然があって街並みも綺麗でいいよ、一度行ってごらん。家守さんも絵画や生け花も嗜み、気さくに話してくれる素敵な人でね」と聞き、
「夏休みは津和野で過ごそう!」と足を運んでお話を伺ってきました。

津和野A邸のダイニングに置かれた達筆のwelcomeメッセージを読みつつ、取材でお会いした漆谷さんは73歳にして多芸多才な女性。津和野邸のあちこちに、漆谷さんのおもてなしの気持ちが表れています。

家守をやることで、自分にも刺激になっている

津和野A邸の家守 漆谷さん

ーーーADDressの家守を始められたきっかけは何ですか?

役場の推進課の担当の方からのご紹介でした。
長く勤めていたNTTを退職して、津和野町の教育委員会で臨時職員をやっていたんです。
森鴎外記念館や安野光雄美術館の運営スタッフもしていましてね。
最後の5年くらいは「津和野くらし推進課」でつわの暮らし相談員として移住したい人への説明や、移住後のケアなどもしていました。

ちょうど71歳のときでしょうか、契約の期限が切れるときに、役場の「くらし推進課」の方が企業誘致の担当もやっていらして。
「漆谷さんにぴったりの仕事があるんだけど。やってみない?」
と誘われたのがADDressの家守を知ったきっかけでした。

仕事をしていなかったらずっと家にいることになるので、
やりがいもありそうと思いましてね、やらせていただくことになりました。

推進課にいたときも移住希望の初めてお会いする方をアテンドしたり、
ADDressも初めての会員とお話をするわけですよね。
私にとっては、外の人の話を聞けるいい刺激になっています。
もともと私は人見知りだったんですけど、仕事しているとそうも言っていられないでしょ。
若い人から同世代の方まで、お話をすることに抵抗はなくなりました。
すごくいい経験になっていると思います。

島根県津和野町にある津和野A邸

ーーー自ら「津和野っ子」と名乗るくらい、生まれも育ちも津和野なんですね

まだまだ浅いですけどね。
若い頃、一度津和野を出て東京に行ったこともありましたが、
あそこは住むところじゃない、と思いました。
緑が少ないしね、忙しない感じで・・・。
根が田舎人なので、そう感じるかもしれませんね。

津和野で就職しました。
やはり津和野が落ち着きますね。

こだわりは会員に話しかけることと、小さな花瓶に花を活けること

ーーー家守をやってみての変化とか、家守をする上でのこだわりはありますか?

予想していたこととのギャップはありませんでした。
会員からいろいろな話が聞けるのは面白いところです。
私は住み込みではなく通いの家守になりますが、
こだわりとしては、「なるべく滞在中の会員に会って顔を合わせて話をすること」ですね。
掃除や洗濯も家守の仕事のうちだけど、それだけだと寂しいですよね。
地元の人と話せる機会は観光ではあまり無いと思いますし。
だからこそ、話す機会を作りたいです。

もう一つこだわっていることは、「花を活けること」です。
この家には4か所小さな花瓶を置いているのですが、
そこに自宅の庭から花や葉、枝を持ってきて活けています。
緑があると部屋の雰囲気も変わるし、なんとなくいいでしょう。
一人でも気づいてくだされば、と思って。

津和野A邸 花瓶に花を活ける

ーーー洗面所やお風呂場でも見かけました。素敵ですね。ところで、漆谷さんから見た「津和野の魅力」はどんなところですか?

そうですね、「何もないところ」じゃないでしょうか。
水族館とか、遊園地とかも無いですしね。
緑の山に囲まれた小さな盆地だけど。
ただ、文化や歴史がしっかり街の人に受け継がれているんですね。
実際に森鴎外や西周もこの街から出ているし。

あとは「親切で礼儀正しい人たち」ですね。
この間も会員から言われたのですが、「道で学生が、知らない私にも挨拶をしてくれる」、それに感動した、と。
挨拶の習慣も根付いていますね。

ーーー確かにこの街の方とは歩いていてもよく目が合うし、挨拶も自然にできるんですよね。なぜそのような風土が受け継がれているのでしょうか。

やっぱり「愛着」じゃないでしょうか、城下町で、かつてお城があって。
無意識に代々見たり聞いたり体験することで、街の文化が人に沁みついているのだと思います。

小さな盆地の町ですが、自然豊かで四季が肌で感じられ、しっとり落ちついた雰囲気があり、町のあちこちに歴史を感じさせるものが残っています。つくりものが無くて本当に昔からあるものです。
私自身もこの街にいると落ち着きますし、外の方にはこの街の良さをご紹介したい、と思います。

津和野の目抜き通り、殿町通りの鯉

(津和野の目抜き通り、殿町通りの鯉)

ーーー「何もない」とはいえ、歴史や文化、それを受け継ぐ人が街の雰囲気を作っているのですね。自然も豊かですしね。

四季折々を楽しめるのも、津和野の魅力ですね。
春なら桜。流鏑馬を行う鷲原八幡宮の桜も綺麗ですよ。馬が走る道に沿って咲いていてね。夏は星空がよく見えますよ。車があれば「にちはら天文台」がおすすめですが、この近くでも星が沢山みえます。
秋は紅葉。堀庭園の紅葉も綺麗ですね。
冬は雲海。盆地に街があるので、9号線から見ると雲海の下に街があり、雲海の上に津和野城跡が浮かび上がってが見えます。
自然を肌で感じられる、そんな土地です。

津和野城跡から津和野町を臨む

(津和野城跡から津和野町を臨む)

ーーーまた秋や冬にも来たくなりました!漆谷さんは「今後津和野A邸をこうしていきたい」というものはありますか?

少し落ち着いたら、私が他のADDressの家を巡り、各家の家守さんが何をしているのか、聞いてみたいですね。
取り入れられそうなことも見出していきたいです。

あとは、会員にリピートしてもらえる家になること。
「また来たい」と言ってもらえるのが何より嬉しいですね。

***

ADDressの家守になることが決まってから、Facebookを始めたという漆谷さん。
投稿を見せてもらったら、書や絵だけではなく、陶芸や水墨画の作品もアップされていました。

津和野A邸 漆谷さん 水墨画の作品

津和野A邸 漆谷さん 陶芸

ーーー書に絵に陶芸。趣味でやっていらしたのですか?

習字は幼い頃からやっていました。墨を摺るときの匂いが好きでね。
お花は花嫁修業で少し習いました。
子育て期間は趣味から遠ざかっていたけど、退職してからですかね、仕事を休まなくてよいので、絵や水墨画、陶芸もやるようになりました。
陶芸は、益田の窯で制作しています。ここ2年ほどはコロナで休んでいますけどね。

ーーーADDressでワークショップとか開かれないんですか?

その話はありますね。子どもたちを集めたりとかね。シェアスペースもあるのでね。
まだ自己満足で、教えるほどではないと思っているけどね。
もしかしたら、いつか。

コロナで中止になってしまっている津和野の神事も、ぜひ見ていただきたいですね。
盆踊りも、津和野のものは普通と違っておもしろいんですよ。
優雅な動きでね。装束も浴衣ではなく白黒の装束で。
昔、装束の下に鎧を着て踊りを装って攻めた逸話があるとか。

それと、杜塾美術館はもう行かれましたか?
建物が重厚でお庭が素敵です。
障子穴から外の景色が逆さに見えるポイントもあるんですよ。
案内の人が教えてくれるから、見てみてください。おもしろいですよ。

杜塾美術館 お庭

(杜塾美術館。お庭も楽しめます)

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漆谷さんと話していると、津和野の魅力と愛着が溢れ出てきます。
1回来訪しただけでは、味わいきれない津和野町。

お土産に、津和野町でよく飲まれるというノンカフェインのお茶、「ざら茶」を買いました。
香味園というこのお店では、自分の体調やフレーバーの好み、効能に応じてブレンドしてくれる自分だけのお茶、「#MYCHA」を作っていただくことができます。早速私も相談しながら作り、自分のお土産にしました。

ノンカフェインのざら茶

150年以上前の街並みが保管され、緑豊かな山に囲まれた盆地で歴史と文化を肌で感じることができる街。
津和野A邸も築150年以上前に醤油の醸造販売をしていた建物。
玄関の土間にダイニングの黒い大きな梁、急な階段、広い和室など、昔の日本の生活を想像しながら滞在できます。
タイムスリップしたような、豊かな時間の流れに身を浸してみませんか?

この記事を書いた人

高石典子

2020年8月よりADDress会員。月の半分はADDressの家を巡り、半分は自宅で過ごす。中学・大学生の2人の子の母。フルリモートで仕事をしており、母親業もリモート化できるのではと実験中。仕事はキャリアカウンセラー&ライター。喫茶店での読書と銭湯後の一杯が至福のひととき。得意技は「ポジティブ変換」。