ADDressの特徴は均質化されていない滞在体験。
観光だけではなく、家守やその土地にいる方々、同じようにさすらう会員同士の偶然の出会いから始まる交流の楽しさ。
家々の個性や偶然性を楽しむことこそが、このADDressのサービスを満喫するコツです。
家の個性を形にする、家守の存在。
今回ご紹介するのは「湯本温泉A/B邸」の家守、三上さんです。
日本三古泉の一つにも入る、福島県いわき市の湯本温泉。平安時代の「延喜式神名帳」に兵庫の有馬温泉、愛媛の道後温泉と共に記されています。
戦国大名も多く訪れ、明治時代には炭鉱の採掘も始まり多くの人が訪れた街、湯本。
「湯本の人の良さは、外から来た人を受け入れる懐の深さなんですよね」と語る三上さんは、「外から来た人」としてゲストハウスを開きました。
古くからの温泉町の湯本にあって「現金を使えない」三上さんのゲストハウスは一風変わった存在です。
なぜその仕組みを取り入れたのか。三上さんから見た地元の人や湯本の魅力はどんなところか。お話を聞きました。
目次
ゲストハウスで旅がどんどん豊かになる経験をした
社会人を10年ほど経験した後、31歳のときに1年間、一人で世界各地を巡る旅に出ました。
当初は「見たいものを見に行きたい」という目的で旅行をしていましたが、ゲストハウスに滞在する中で旅がどんどん豊かになる経験をしたのです。
ゲストハウスは旅行者同士が交流できる共有スペースがあることが多く、そこで一緒に食事をしたり、情報交換をしたりすることで、ガイドブックにはないような名所を知ることができます。また、一緒に出掛ける短い旅の道づれができたりするんですよね。
さまざまな国籍の人が交流するので、お互いの文化や価値観を知ることができるのも楽しい体験です。
一番印象に残っているのはタイのバンコクで滞在した「サイアムゲストハウス」。
大きなリビングがあり、私も含めて滞在者同士がフレンドリーに交流していて、よなよなゲームをしたり外出をしたりと遊んでいましたね。
ポイントは、広い交流スペースと、ゲスト同士をつなぐ女性スタッフの存在でした。
その女性が自然に声をかけ、きっかけを作ってくれるのです。
あるときは現地の方が料理教室を開いてくれて、そのときの滞在者数名で訪問してタイ料理を習ったこともありましたね。
旅が豊かになるゲストハウスという存在。その体験を経て自分でもやってみたいと思い始めました。
ADDressは自分が20代や独身のときにあれば間違いなく使っていたサービス
帰国してからは、開業資金を貯めることを目的に数年間会社員として働きました。何度目かの転勤で来ることになった福島県いわき市で奥さんと知り合い、この地でゲストハウスを開くことにしました。温泉街に空家の元タクシー会社の建物があるということで、自分でもDIYを習いつつリノベーションしました。
ところが、工事を始めた直後の2020年初頭から始まったコロナの勢いは、工事が終わりそうな2021年の1月になっても収まる気配がありませんでした。ADDressに出会ったのはそんなときでした。いわきA邸の家守、北林さんからADDressというサービスがあることを聞いて、日本全国を定額で多拠点生活できる面白いサービスだなと興味を持ちました。
20代の、いや独身の自分だったら間違いなく使っていたサービスです。
いわきA邸にADDress代表の佐別当さんが来訪されたときに紹介いただき、次の日には工事が完了したばかりのGuesthouse&Kitchen Haceを見に来てもらい、その場で提携の話が進んで2021年の3月にA邸としてオープンしました。
B邸がオープンしたのはその1年後です。私はAB両方の家守をやっていますが、A邸はゲストハウスならではの交流の楽しみが、B邸は静かな個室でお仕事にも集中できる環境があります。
(静かな個室でテレワークにも適したB邸)
A邸とB邸の間も徒歩2分の距離。B邸に滞在して昼はお仕事をし、夜はA邸のバーに遊びに来る、という使い方もできます。
自分の体験から「あったらいいな」を取り入れた
(A邸2階の共有スペースは掘りごたつで交流できる。壁紙は三上さんが選んだもの)
A邸の内装は、もともとはインバウンドのお客さまを意識して、「日本らしさ」を感じていただけるような作りにしました。壁紙を和の柄にしたり、模様ガラスを再利用したり、共有スペースには掘りごたつを設置したりと和のデザインを意識しました。
タイの「サイアムゲストハウス」の良さを取り入れたいと思い、1階を滞在者と地元の人が交流できるような広いカフェバースペースにしました。ゲームなどのコミュニケーションツールを置いたり、スタッフがゲストにさりげなく声をかけるようにして、訪れた人に楽しんでいただけるような空間を作っています。
(A邸1階のカフェバースペースには地域を紹介した本や皆で遊べるゲームなども置いてある)
他にも、自分がいくつもゲストハウスを回っていたときに「これがあるといいな」と思っていたものも実現しましたね。
例えばベッドの枕元に物を置けるような棚を設置してUSB充電もできるようなコンセントを近くに置いたり、枕元で照明のスイッチをONOFFができるような設計にしたり。
また、ドミトリーはスペースが広くなく、ほぼ寝る部屋になっているので、快適な睡眠がとれるようにマットレスは良いものを選びました。
(A邸の個室。枕元に棚や直接USBが使えるコンセント、鏡など細やかな気遣いが)
会計は現金を使わず、カードや電子マネーなどキャッシュレス決済のみです。ドリンクやフードの注文はQRコードでメニューを読み取って自身の携帯から行っていただきます。
時代の流れで現金決済はいずれなくなっていくと思っていますし、提供するサービスや対象とするゲストを考えると、そのほうが使いやすく感じていただけると思っています。
もちろん、コストやセキュリティ面での理由もありますが。
完全キャッシュレスは湯本ではめずらしく、最初は地元の方からも「現金扱ってないの?」と驚かれましたね。
けれども、次第に「ゲストハウスHaceです」と伝えると「今どきの、現金を使えない店ね」と、地元の方から特色を覚えてもらえるきっかけになりました。
新しい技術や文化に柔軟性が高いADDressの人たち
ADDressの会員は、好奇心が強くて新しい技術や文化に柔軟性がある方が多いように思います。「現金は使えない」と説明したときに、「あるべき姿だよね」と支持してくださったり。私自身とも考え方が近く、価値観にも共感いただけると感じます。
ユニークなADDress会員にも出会いました。
例えば、さすらいの料理人のAさんは、ADDressを利用しながら各所でお寿司などの料理を提供しています。湯本にお越しになったときは、馬刺しに隠し包丁を入れた方が良いとアドバイスをもらいました。
また、経営者をされているBさんからは「温泉はたくさんあるのに、ここにはサウナがないよね」とコメントをもらい、その言葉をきっかけにサウナを作ることに決め、動き出してます。
歴史を感じられる温泉、地元の食材が楽しめる居酒屋
湯本は古くから温泉のある宿場町として栄えてきて、明治時代には炭鉱の町として外から来る人を多く受け入れてきました。
だから、人を受け入れる懐の深さがあるんですよね。それが湯本の人の魅力です。
湯本A邸の近くには老舗の温泉旅館「古滝屋」があり、この1階は誰でも使える図書館のようなラウンジになっています。
「古滝屋」のオーナーは地域活動にも力を入れており、旅館の9階に「原子力災害考証館 furusato」を開きました。
住民目線で原発事故を考証し、影響や教訓を伝える展示です。誰でも無料で見学できます。
湯本の鎮守様、温泉神社は階段を上った小高い山の上にあり、1300年の歴史があります。
夜はライトアップされるのでまた違った雰囲気を楽しめますよ。
温泉神社からまっすぐ伸びる道は元参道で、その道沿いに湯本温泉AB邸があります。
(市指定有形文化財にもなっている温泉神社)
B邸の目の前には300円で利用できる公衆温泉施設、「さはこの湯」があります。
江戸末期の建築様式を再現した純和風の建物で、ちょっとしたタイムスリップ感が味わえます。ここに置いてある「木村牛乳」もおいしいので、風呂上りにお試しになってみてください。
地元の食材が食べられるお店としては、居酒屋の「海幸」はボリュームのある海鮮料理で人気がありますね。
夫婦で切り盛りしているこじんまりした居酒屋「貴和」もおすすめです。常連さんが多いですが、初めての人も温かく迎えてくれるアットホームなお店です。
少し足を伸ばして海岸や「競走馬」の温泉の見学も
いわき市小名浜の中之作地区に清航館という建物があります。そこで毎年2月ごろに飾られる「つるし雛」も華やかでおすすめです。
清航館はもともと網元さんの家で、津波の被害に合って取り壊そうとしていたところを建築家の方が買い取り、修繕して開放している築200年の古民家です。
軒先だけではなく、屋内にも鮮やかな吊り雛が飾られて風情があります。
他にめずらしいものとしては、全国で唯一JRAの競走馬の温泉リハビリテーション施設が湯本にあり、見学することもできるんですよ。
プールで歩きながらリハビリをして傷を癒す馬の姿を見られます。温泉でくつろぐ馬も見られるかもしれませんね。
湯本をもっと居心地の良い街にしていきたい
これからの夢としては、湯本をもっと居心地の良い街にしていきたいと思っています。
B邸の隣にはサウナも準備していて、2022年の年内にオープン予定です。
美味しいタイ料理屋さんも欲しいですね。タイ料理店をできる方が湯本に移住してくださることを、期待して待っています。
自分にとっての居心地のよさは「受けたいと思うサービスや商品が身近にあること」。
無ければ作ればいい。自分で全て担う必要はなく、誰かに頼んでもいい。「これがあるといいな」を街に取り入れていきたいですね。
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三上さんに教えていただいたお店やスポットは、ガイドブックではたどり着けない情報でした。
ゲストハウスHaceで提供しているドリンクやフードも地元のものを多く取り扱っているそうです。
内装にしても仕入れる飲食物にしても三上さんのこだわりがあり、一つ一つに愛着が込められて丁寧に選択されています。
Haceで飲めるコーヒーは湯本から二駅先の「植田」駅徒歩1分にある「bo-shi coffee」から仕入れていると聞き、伺ってみました。
こじんまりした店舗では瓶詰された「クラフトコーヒー」や、コーヒーの果実をシロップにした「カスカラシロップ」など珍しい商品も置いてあります。
コーヒー豆は店主さんがフェアトレードで直接買い付けたもの。豆が入っていた麻袋は発注があってから制作する1点もののトートバッグに加工されて販売されます。
訪れた日はちょうど雨で、雨宿りしながら店主さんとお話をしていると、偶然三上さんの奥さんと2歳のお子さんが来店されました。
縁がつながり、深まっていく。
余白のある旅に舞い込んだ偶然が、温かい出会いを運んでくれました。
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