ADDressの特徴は均質化されていない滞在体験。
観光だけではなく、家守やその土地にいる方々、同じようにさすらう会員同士の偶然の出会いから始まる交流の楽しさ。家々の個性や偶然性を楽しむことこそが、このADDressのサービスを満喫するコツです。
家の個性を形にする、家守の存在。
今回ご紹介するのは「椎名町A邸」の家守、長田(おさだ)さんです。
住宅メーカーでの自由設計戸建住宅のプランナーを経て、マンションコミュニティ形成支援の事業を立ち上げた長田さん。
椎名町(しいなまち)A邸は、もともとは長田さんの祖父母が暮らしていた家を住民と一緒にリノベーションした「ユウトヴィレッジ南長崎」と名付けられた家。2021年末にADDressと提携を開始しました。
2014年4月、「人と人を結ぶ」「ユートピアに向かう」の想いを込めて「株式会社ユウト」を創業した長田さんは、まさに自然に人の輪の中心にいるような方。広いリビングで、お話を伺いました。
※椎名町A邸は2023年12月、椎名町B邸は2024年4月でADDressと連携解消して、長田さんは家守を退任しています。
目次
祖父母の家をリノベーションし、シェアハウス→ゲストハウス→社宅→ADDressと変遷
「みんなでつくるシェアハウス」、ユウトヴィレッジ南長崎がオープンしたのは2014年の年末でした。住宅メーカーに勤めていたとはいえ、実際の工事は知らないことばかり。大工さんの力を借り、住民も集まって試行錯誤しながら作り上げていきました。
その後、民泊が緩和されたことを機に外国人向けのゲストハウスを始めたところ、瞬く間に外国人旅行客の間で話題となる人気施設になりましたが、2020年からコロナ禍の影響で外国からの訪日客がストップ。
企業の社宅として使われた時期もありましたが、契約終了となり困っているときにADDressの社員さんから声をかけてもらいました。彼はもともとゲストハウス時代から何度か泊まりに来てくれた知り合いでした。
ADDressの「地域と、訪れた人をつなげる」という考え方にも共感し、家守のイメージもついて提携することにしたのが2021年12月でした。
街を一つのゲストハウスに見立てて
ゲストハウスをやりたいと思った背景には、10代で国内や世界中を旅した経験があります。
一番印象に残っているのはキューバのハバナで3週間ほど民泊をしたとき。その家のホストに様々な友人を紹介してもらい、毎日のように一緒に遊んでいました。いつかはそんな「人が集まる場所」を自分で作ってみたいと思っていたのです。
景色や地元の食材だけではなく、地元の人も観光資源になると思っています。
椎名町は地元の人同士が仲良く、外から訪れる人が地元の人の輪に自然に入れる仕組みがある。街のウェルカムな雰囲気はまさに「また訪れたくなる理由」になるんですね。
だから、人が集まって交流できる「家」だけではなく、街自体がゲストハウスになるような、外から来た人が楽しめる街を作りたいと思いました。
例えば街の銭湯はバスルームであり、飲食店はダイニングとキッチンで、道や広場で交流し、住民の家は個室のような。
実際、このユウトヴィレッジ南長崎は入り組んだわかりづらい場所にあるので、よく住民が迷っているゲストに道を教えてくれたりしているんですよ。
地元の人たちが有機的につながってゲストに親切にする、そんな雰囲気が椎名町にはすでにあると思います。
私は生まれは椎名町からちょっと離れた北区なのですが、もともと敷地内にアパートがあり、子供のときから賑やかな環境で大人と交流していました。祖父も地元のお祭りの準備に中心的に関わっていましたし、その姿を見て育った私も当然のようにお祭りに顔を出していました。
大学時代は数百人が入るサークルを立ち上げたこともあります。昔から人を巻き込んだり、旗振り役をやることが好きでしたね。みんなで何かを作り上げる、その過程自体を楽しんでいました。
椎名町のある豊島区に来てからは、地元のお祭りを仕切る組織である「豊友会」の青年部に入り、盛り上げてきました。
「お祭りでサンバをやろう!」と提案したことがあったんです。
これは賛否両論あり、年寄衆を中心に「神聖なお祭りでサンバなどけしからん」という意見もあったのですが、最終的には資金も自分たちで集め、年寄衆にも納得してもらって実現しました。
地元の人が積極的にまちづくりする地域って多くないと思うんですが、椎名町は「豊友会」での活動を通して地元の多世代が集まって共同で動くので「自分たちで街を作り、守ろう」という機運が高まりますね。
青年部といっても60代の方もいます。みなさんアクティブで元気ですよ。夜の自警パトロールなども定期的に行われています。
代々続く家が多いというのもあるかもしれません。親子、孫まで代々ここに住んでいる人も多いですね。地域の子どもに対しても、さまざまな大人が関わって声をかけたり、教えたりする風土があります。
地域活動に関わっているうちに色々な相談が私のもとに舞い込んでくるようになりました。例えば、お店を40年以上切り盛りしてきたスナックの80代のママが後継者を探しているので相談に乗ってほしいという話をいただいて、そのスナックを受け継ぎ、「ユウトヴィレッジ南長崎エリート」というゲストハウス(1Fがバー、2Fがゲストルーム)を2017年につくったこともあります。
当時は外国人留学生を受け入れていて、伝統工芸ワークショップや地元の「ビール祭り」で地域住民と交流を深めるなど、語学だけではない日本の文化や地域との交流を通じて、また椎名町に帰ってきてほしいという願いも込めていましたね。商店街の入口にあるこのスナックを再生することで、商店街に活気を取り戻せるのでは、という思いもありました。
交流しやすい広いリビングと、清掃へのこだわりが快適さを生み出す
ADDressを始めて、最初に感じたのは「懐かしい」という感覚でした。いろいろな人が訪ねてきてくれて、地域のお店や人を紹介したり、つなげたり。
シェアハウスやゲストハウスのときの感覚を思い出しましたね。ユウトヴィレッジを立ち上げた時とやっていることは同じです。
ADDressは面白い会員の方が多く、会員と交流するのも楽しいです。印象に残っているのは徒歩でADDressの家を回っている人ですね。会員同士も偶然ここで再会することもあるようです。
部屋数も4部屋と多く、比較的多くの方が訪れる家だと思います。共有スペースも広いので交流を楽しんでほしいですね。
もともと空間デザインに関わっていたので、目線が合いすぎる空間で窮屈に感じないように心がけました。
特に初対面の場合、少し距離感が取れるほうが居心地がいいんですよね。
このリビングは天井を高くし、床には段差をつけているので、椅子やクッションに座ったりカウンターのスツールに座ったり、好きな距離感で話せるので、交流が生まれやすいのではないでしょうか。
意識しなくても、なんとなく「居心地がいいな」と感じていただけるように、共有スペースを作っています。
快適な空間作りのためにこだわっているもう一つの点は清掃です。
サブ家守の「くまさん」にも頼んでいますが、細かいマニュアルを作って清潔な状態を保っています。
会員の部屋にも、初めての方にもわかりやすいように、清掃の仕方や清掃道具の置き場所、現状復帰するための写真なども掲示しています。「清掃マニュアルがわかりやすい」とレビューでいただいたこともありました。
快適な状態を保つために、滞在する方みなさんがちょっとずつ使った部分をきれいにして、後の人が気持ちよく使えるようにしていきたいと思っています。
そのために、例えば「使ったら水はねをふき取ってください」など、具体的にお願いしたいことを書いています。お陰様で、レビューでも清潔さを評価されることが多いですね。
椎名町の入口として訪れてほしい、気軽な立ち飲み屋
椎名町に来たら、ぜひ「おぐろのまぐろ」を訪ねてみてください。
このお店は、創業者である小黒弘子さんが高齢のためお店をやめようという話になったときに、「地域に愛されたこの店をこのままなくすのはもったいない!」と私の会社(ユウト)で引き継いで改装し、リニューアルオープンしたお店なのです。
立派な杉材を使ったカウンターを「己」の形に配置することで、店員がすみずみまで行き来でき、お客様同士も距離が近くコミュニケーションが生まれやすいように設計しています。
3代続く築地でのまぐろの老舗卸業者「小黒食品」から仕入れて提供しているお店なので、手ごろなお値段で美味しいまぐろを楽しんでいただけます。
立ち飲みなのでふらっと気軽に入れますよ。店長の志村さんは街のコミュニティマネージャーのような存在で、聞いたら快くおすすめのスポットなども教えてもらえます。まずは街の入口として利用していただきたいです。
看板商品「桝盛り本まぐろ」(199円 1人1回限り)はぜひ食べてみてください。
銭湯の「妙法湯」もおすすめです。懐かしい雰囲気が味わえます。
有名なのは「トキワ荘マンガミュージアム」ですね。手塚治虫を始めとしたマンガの巨匠が集った「トキワ荘」。当時の居室の雰囲気がそのまま再現されています。
隣接するブックカフェ「ふるいちトキワ荘通り店」の大家さんでもある小出さんも、このトキワ荘マンガミュージアムの開館を実現すべく何年も尽力された方です。元は時計店の店主さんなのですが、「自分たちの町を盛り上げよう」と推進されてきました。
まさに住民が自ら動いて区を巻き込み、街を盛り上げていく。ミュージアムに続く通りにもマンガ関連施設が並んでいます。
お越しになった方にはその活気を肌で感じてほしいですね。
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話していて、街の人の名前がポンポンと出てくる長田さん。
「トキワ荘のお休み処としてオープンした施設は、もともとは鷲田さんが米屋として営業していた場所なんですよ。鷲田さんは陶芸が趣味なのですが、展示会も開くようになり、陶芸を教えることもされているんです」
「伝統工芸士で手描き友禅を手掛けている坂原さんを招いてワークショップを開いたこともありました。この街に長くお住まいです」
取材の後に「おぐろのまぐろ」に行きましたが、そこでも料理研究家のきじまりゅうたさんが偶然通りかかって、ひとしきり飲みながら盛り上がりました。
まさに「ユウト(結人)」の名の通り、人と人をつなげるかけはしのような存在。そして、面白い人を見つけるとスポットライトをあて、周囲にその人の魅力を伝えずにいられない人。だから、さまざまなアイデアが形になり、その中心に「人」がいるのだと思います。
長田さんはパラレルワーカーとして今は中小企業を元気にする新規事業開発をされているそうです。
人も、街も、企業も。巻き込みが得意な長田さん。火付け役としての活躍がどんどん広がっていきます。
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