地元に帰ったように時間がゆるく流れる街【ADDress家守インタビュー】三浦A邸 鈴木夫妻

ADDressの特徴は均質化されていない滞在体験。
観光だけではなく、家守やその土地にいる方々、同じようにさすらう会員同士の偶然の出会いから始まる交流の楽しさ。
家々の個性や偶然性を楽しむことこそが、このADDressのサービスを満喫するコツです。
家の個性を形にする、家守の存在。
今回ご紹介するのは、神奈川県の三浦A邸の家守、鈴木夫妻です。

三浦A邸は京急三崎口駅からバスで14分の三崎港から徒歩5分ほどの距離にあり、家を出るとすぐ右手に海が見えます。
商店街も近く、まぐろの全部位が食べられる定食屋や美味しい海鮮料理屋、古民家を改造したカフェや本屋なども並びます。

三浦A邸の家守の鈴木夫妻と商店街を歩くとお店の人に声を掛けられたり、子どもたちに声をかけたり。
街の人がほぼ知り合いなのではと思えるくらい、顔が広い鈴木さん&奥さんのはなさん。鈴木さんの本業は左官業で、今回の滞在中も「鈴木さん、いる?漆喰のかまど、修理してほしいところがあるんだけど」と地元の人がふらっと訪れてきます。

三浦A邸の共有スペース

(三浦A邸の共有スペース。隣の個室とは襖で仕切られています)

三浦A邸は木造2階建てで個室が3部屋。うち1部屋にはデスクとチェアがあり、畳の2部屋には座卓があります。共有スペースはコワーキングスペースにもなり、複数の方が同時に仕事をしていることも。

三浦A邸のダイニングで、まずは家守になったきっかけから伺いました。

古いものの価値に気づき、大切にしたいと思うようになった

ーーーどのようなきっかけで家守になったのですか?

鈴木:空き家問題に関心がありました。空き家になる実家の活用を考える中で、
三崎の青年商工会議所の後輩にADDressを教えてもらったことがきっかけです。
広い実家をリノベーションし、家守としてADDressと契約することにしました。

はな:私は家守で何をするかもよくわかっていない中で始まりました。明日から予約開始です、とメッセージをもらって慌てました。

ーーー鈴木さんは、もともと空き家問題には関心があったのですか?

鈴木:15-6年前の話になるのですが、知り合いの大工が「三崎が面白い」と言い始めましてね、「古いトタンを活かしてリノベーションしたら面白いんじゃないか」と。
建築の勉強も兼ねて一緒に古い建物を見るうちに、古いものの価値を感じるようになったのです。
住居は壊すと最新の建ぺい率(敷地面積に対する建築面積の割合)を適用する必要があるため、建築面積が以前より小さくなってしまいます。
空き家をリノベーションして活用できないか。それを考えていました。
私自身は左官業なので、丁寧に作られた土壁を再利用して活かしたい、という気持ちもありましたね。

ADDressは色々な人が訪れるでしょう。
今は少なくなりましたが、漆喰を塗った空間、和室の良さも感じていただきたいですね。
実際、畳の部屋だと集中力が上がりやすい、という方もいますよ。

ーーー家のおもてにある、波打つ壁も漆喰で作られているのですね。

三浦A邸 波打つ漆喰の壁

(家のすぐ側の通りに面したところにある波打つ漆喰の壁。)

はな:はい。主人が左官ということもあり、案内文などを掲載する壁も私たち家族で作りました。壁に埋められている貝殻は、以前家族で沖縄へ旅行に行った時に子どもたちが集めてきたものを散りばめています。

ーーー家守を始めて何か変化はありましたか?

はな:ADDressやっていなかったら出会うはずのない人に会えた、というのが大きいですね。
三浦は神奈川の最南端。この地にずっと住んでいても不自由はありませんが、
会員との交流で、外の世界を知ることができました。
今までの私の世界には無いことばかり。多拠点生活なんて、そもそも発想がありませんでした。

例えば、独身の人が会員かと思ったら家族がいる人もいたり。
コロナになって収入が減って奥さんに追い出され、ADDressを使っている間に
初めて本を書いてカテゴリの売り上げランキングに入って一発逆転、なんて会員もいました。
ADDressの人たちは、普通の人なら悲しいと感じることを、そう捉えていないケースも多い気がします。おもしろいですよね。

自分の子どもたち(中2、小5、小1)に対しての感覚も変わってきた気がします。
今までは子どもたちが遅れをとらないように、外に出て戦えるように学歴を重視しないと、と考えていましたが、ADDressで会う人たちを見ていると個性が大事で、ある意味学歴じゃないと思えるようになってきました。

できないことをできるようにさせるのではなく、できることを伸ばすほうがいい。
そう考えると、子どもに優しくなれるようになった気がしますね。

子どもたちと会員が直接話すこともよくあるのですが、会員が優しくて、子どもたちを全肯定してくれるんですね。
子どもたちも壁がなくて、会員にどんどん話しかけていく。大人と話せるようになってきました。

ーーー画一的ではなく自分の物差しを持つという新しい価値観を知って、地元の価値観とズレてきたりということはありませんか?

鈴木:ズレを感じることはあります。ただ、私はハイブリッドで経験させてもらって幸運だと思っています。
私はずっと地元の三浦にはいたのですが、もともと斜に構えているとことがあって。
地元の良さに気づいたのは40を過ぎてからでした。祭りがきっかけでしたね。
地元は喧嘩っ早いけど、人情に厚いというか。私は両方の価値観の良さがわかります。

今は地方にとって有利な時代になっていると思います。以前と違って自分たちで発信することもできるし、生産者に関心を持つ人が増えている。テクノロジーの力を借りて地域格差がどんどん少なくなると思います。

でも地方は「どうしたら昭和の繁栄が戻るか」という観点で考えていたりします。
そこにギャップは感じますが、それはそれでもいいと思います。
無理に変える必要はないですし、話しているうちに興味をもってくれる人がいれば話します。焦ることなく、融合させていきたいですね。

無理せず、ゆるく家守やってます

無理せず、ゆるく家守やってます

ーーー家守としてのこだわりはありますか?

はな:会員が部屋で集中してお仕事をしているかもしれませんし、普通は部屋をノックして家守が挨拶をするものかもしれませんが、この家ではそれをしないようにしています。

その変わり、玄関を入るときは敢えて大きな声で「こんにちは」と言うようにしています。家守がいるよ、ということを声で知らせる感じですね。
出て来てくれる会員がいれば、そのときに話したりします。
私自身、人見知りな部分もあるので、急に来られると驚く気持ちもわかりますし、
会員がどんなコミュニケーションを取りたいかは、会うと何となく感じるんです。

最初は家守も頻度多くイベントをやらないといけないのか、とか思ってプレッシャーも感じていましたけど、そういうのは自分には無理だな、と思って。
無理のない範囲で、ゆるく家守やってます。

ーーー続けられるコツかもしれませんね。鈴木さんは今後やっていきたいことはありますか?

鈴木:私は2つくらい考えていることがあります。
一つはコロナの状況下では難しいですが、明けたら地元の祭りに会員が参加できるようにしたいですね。
7年に一度、この地区の担当が回ってくるんです。そのときまでに準備したいですね。

もう一つは、お寺とご縁があるので朝の坐禅をやりたいと考えています。
和室があるのでそこで朝坐禅をして、近所のまぐろを出すお店に朝食を食べに行くとか。そのような企画を考えています。

ーーー楽しみです!そういえば家守が他のADDressの家を訪ねることもあると聞きました。

はな:はい、この夏に下の二人の子ども(小5男子、小1男子)を連れて鎌倉B邸に行きました。三浦と鎌倉は近くて泊まるような距離ではないのですが、ADDressがあるから行ってみようかと。鎌倉B邸、辿り着くまでに百段の階段があるでしょう。子どもたち、数えながらひょいひょい登っていて。
その姿を後ろから眺めながら、「健康に育ったなぁ」と眩しく感じました。

ADDressの滞在で、子どもたちがたくましく見えました。
例えばシーツをかけたり、お風呂も後の人のことを考えてちゃんと水気をふき取ってきれいに使ったり。 洗濯物を干してくれたりしてね。家だと全然やらないのですが。
旅館と違ってお客さんではないので、人と暮らすときの生活の仕方を、ADDressで自然に教えられた気がします。

三浦は「地元に帰ってきた」感のある街

ーーー 最後に、三浦のおすすめスポットを教えていただけますか?

はな:マグロなら漁師さんがやっているお店、「慶丸」ですね。会員にほぼ教えます。
ただお店の入り方にコツがあって、普段は開いていないので扉に貼られている携帯番号に電話して開けてもらいます。

あとは、会員から「夕日がきれいだよ」と教えてもらって、
聞かれたときのために「もっといいところ探しておかないと」と夕日スポットを探すようになりました。
ダイヤモンド富士がきれいに見えるスポットがありますよ。朝日なら城ケ島ですね。

鈴木:釣りもできます。1500円/日で道具、餌、バケツがセットになってレンタルできます。アドバイスも別料金でしてもらえます。

三崎港

(三崎港。漁船が行き来するのが見え、近くに市場もあります)

はな:三浦の良さは、「地元に帰ってきた感」ですね。
気軽に入れる庶民的な飲み屋さんと、昭和の雰囲気が漂うスナック。
タイムスリップしたような感覚になれます。
バリバリ働いている人には、 時間がゆるく流れてのんびりできる街になると思いますよ。

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快活な「女将さん」はなさんと、地元のよりよい未来の姿を常に考える鈴木さん。
私自身も三浦でお二人に会うのは2回目ですが、大袈裟ではなく自然に温かく迎えられて「地元に帰ってきた」ように感じます。
三浦はレトロな中にもおしゃれにリノベーションした喫茶店や本屋、美容院もあり、ほっとできる空気が流れています。

時間がゆるく流れる地元に帰った感のある街、三浦。
地元に顔が広い家守の鈴木夫妻のお誘いにご一緒すると、行くたびに知り合いが増えそうです。

この記事を書いた人

高石典子

2020年8月よりADDress会員。月の半分はADDressの家を巡り、半分は自宅で過ごす。中学・大学生の2人の子の母。フルリモートで仕事をしており、母親業もリモート化できるのではと実験中。仕事はキャリアカウンセラー&ライター。喫茶店での読書と銭湯後の一杯が至福のひととき。得意技は「ポジティブ変換」。