デザインによって地域と関わる道を増やしていきたい【ADDress会員インタビュー】塩原さん

塩原亜希子さん(46)は埼玉県の所沢に家をもちながら、月に2週間ほど、リモートワークをする会社員の夫とともに全国を旅行する生活を送っています。

塩原さんはWebディレクター・Webデザイナーとして働いています。10年ほど前からフリーランスになりました。

会社にいたころと比べて、知人経由の仕事が増えたと言います。たとえば地元の商店街の喫茶店からデザインを依頼されたり。

ローカルの仕事は、たしかに規模が小さいし、ディレクター業もデザイン業も一人で兼任しなければならないことがしばしばです。

しかしそういった仕事には、とある「熱さ」が潜んでいました。

その熱さに惹きつけられた塩原さん。彼女がADDressで全国を周る理由のひとつには「出会いのなかでローカルの仕事を見つけたい」という想いがあるようです。

塩原さんはなぜローカルの仕事を請けたいと思うのか。そしてそのためにどのような行動を取っているのか。そのようなことを中心にお話を伺いました。

洋服とメイクが好きな塩原さんのホッピング荷物事情

――― ADDressを始めたきっかけは何ですか?

結婚して10年ほどの間、夫は通勤していたし長期の休みを取りづらい会社だったこともあって旅行にほぼ行けなかったんです。でもコロナになって、夫の会社もリモートワークが可能になりました。

それがきっかけで、働きながら旅行できるADDressをやってみようとなったんです。

使い始めたのは2020年9月からなので、いまでは2年半以上使っています。私が本会員で、夫を同伴者として登録して周っています。(参考:同伴利用制度

――― 始める前に何か不安などありました?

不安ということではないんですけど、荷物がとても多いんです。二人それぞれパソコンとモニターを持ち歩いています。

それに私は洋服が好きなので、つねに五着は持ち歩いています。ずっと同じ服を着ているとテンションが上がらないじゃないですか。特に旅先にいるときに結婚記念日や誕生日が来たら、ちゃんとしたレストランに行きたいんです。

だから服も超1軍が一セットと、1.5軍が2セットと、どうでもいいのが2セット。さらに部屋着と寝間着もあります。

――― エステもお好きということはメイクの道具も多いんですか?

多いかもしれないですね…スキンケア用品でポーチ1つ、お風呂セットでポーチ1つ、化粧品でポーチ2つくらいになります。ポーチだけで4つはありますね。

初めての家だと、どれくらい古い匂いがするか、どれくらい肌が乾燥するかといったことが分からないので、いろいろ詰めこんでしまうんです。

ローカルの仕事をしたいのは、情熱の源流に触れられるから

――― ADDressを始める当初に描いていた計画は何かありましたか?

実はデザインを使ってローカルの問題解決をしたいということを常々考えていたんです。

というのも、私は所沢(埼玉県所沢市)に自宅があるんですが、フリーランスになってから地元のローカルな案件をいくつか請けるようになったんです。

たとえば以前、商店街に個人営業の珈琲屋さんができるとなったとき、知り合いの税理士さんが私を紹介してくれて、店舗やWebサイトのデザイン、そして経営の方針にまで立ち会わせていただきました。それがおもしろくて。

――― ローカルな企業やお店から請ける仕事の魅力はどこにあるんですか?

直接、社長さんと関われるんです。社長というのは情熱の源流ですよね。社長の情熱に共感できたときこそ本当に一生懸命働くことができる気がします。

そしてこちらの提案が通って結果として成功したら、社長さん自身と手を取ってお互いに喜べる。そういうのがおもしろいと思うんです。

だから私としては、ビジネスの源流にある情熱をくみとったうえでのデザインをしたいんです。ただ見栄えを良くするためのデザインではなくて。

代理店経由で請ける仕事だとそれは絶対に成し遂げられません。そもそも社長と会うこともないですからね。でも地域に根付いたローカルな案件だと叶う気がするんです。

飲み屋に通って、仕事を見つける

――― どうすれば旅行先でローカルな仕事と巡り合えるんでしょうね。

地元での成功パターンを言えば、飲み屋さんに通い続けて人脈を広げるんです。チェーン店ではなく地元密着の居酒屋の方がいいですね。

通ううちにだんだん共通の知り合いが増えて、その人たちと飲みながら少しずつデザインができることをアピールしていく。そうするのが遠回りのようで一番近道じゃないですかね。

不思議なことに、デザインの実績を知らなくても、話していて気が合うと仕事を任せてくれるんですよ。

ADDressだと一つの街に何度も行きやすいじゃないですか。地元の人と何度も会って、信頼関係を築いていければいいなと目論んでいます。

――― なんとなくわかります。ローカルな場ではフィーリングがモノを言いますよね。

あとその街自体を好きになれるかも大事ですよね。昔、とある地域における地域開発×デザインのコンペがあって、優勝できたことがあったんです。

だけど、その土地があまり好きになれなくて。だから実行自体は辞退してしまったんです。

一緒にやりたいと思える街や人かどうかは自分で見ないと分からないので、いまは全国をうろうろしているんです。

小樽に惹かれたワケは観光客と地元民をブレンドさせる文化

――― これまで塩原さんが、好きだなと思えた街はどこかありますか?

小樽(北海道小樽市)ですね。小樽っていわゆる観光地というイメージしかなかったんですが、いい意味でギャップがあったんです。

ある夜、たまたま入った居酒屋に地元の人たちがたくさんいたんです。その店はコの字型のカウンターにそって席が10席くらいしかない小さなお店でした。

彼らはお店の女将さんと楽しそうに話していました。でも、彼らはまったくよそ者の私たちのことをすごくすんなり会話に入れてくれたんです。

それがきっかけで小樽はすごく好きになりました。観光地なのに、観光客を観光客としてだけでは扱わずに、地元の人たちとうまくブレンドさせる文化があるみたいなんです。

私が何度か小樽に通えばデザインの仕事への展開があったかもしれないんですけど、まだ行けていないんですよね。

嬉しいことにADDressの家がどんどん増えていくから、新しいところに行きたくなっちゃうんです。

全国にはデザインや企画のアイデアが転がっている

――― 地方で仕事を見つけるのはまだかかりそうですね。

そうなんですよね。でもADDressをしていたことで、いまの仕事にもいくつか良い変化がありました。

地元の所沢で仕事を依頼してくれていた人たちが、私がアドレスホッパーをしていることを知ると、アイデアの相談を頻繁にしてくるようになったんです。

たとえば、飲食店のオーナーさんが「今度うちの店の15周年記念があって、なにか企画をしたいんだけど、塩原さんが全国で見た中におもしろい企画はなかった?」とか。

――― 実際全国を旅行していると、おもしろいアイデアは見つかるんですか?

いろいろありますよ。白馬A邸(長野県北安曇郡白馬村)に滞在したときは、地元の商店街ガチャみたいなものを見つけました。

癖のある店主のプロフィールや、実際に店に行って店主と話しやすいような小ネタが入っているんです。

鯖江A邸(福井県鯖江市)に行くときに福井駅のお土産コーナーを見たんですが、包装紙の裏側に福井県のちょっとした豆知識がコンテンツとして書いてあるお土産がありました。これも買った後に話のネタになりますよね。

そういった企画やデザインをメモに書き溜めておいて、パクリにはならないようにうまくブレンドして仕事に生かすんです。

――― ちょっとした工夫で話のネタを提供するデザインが多いんですね。

日本ってモノが飽和しているので、気持ちがくすぐられるものに価値を感じている人が結構いるんじゃないですかね。旅行をすることで、あらためて私もそういうデザインの大切さを意識しています。

やっぱり一か所にとどまらず移動しながら暮らしていると、視野が広がりますね。とくにアイデア集めには限界がありません。すべてが勉強になります。無駄になることなんて一個もないなと思いますね。

――― 最後にADDressを始めるか悩んでいる方へのメッセージをお願いいたします。

ADDressは、ADDressをやっていなければ出会えないような人間の宝庫なので、自分のなかの人間図鑑の種類がどんどん増えていく気がします。

私は仕事でマーケティング関係の業務もするのですが、普段ならあまり縁のない世代のペルソナを考えるときにも、具体的な像が浮かぶようになりました。

年が離れすぎて話しづらいかなということはあまり考えずに積極的に話してみると、人間図鑑が豊かになるのでおすすめですよ。

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この記事を書いた人

佐伯 康太

神奈川県横浜市出身。 ADDressで日本をざっくり一周し、ご縁のあった静岡県川根本町へ春から移住。町の場づくりに関わりつつ、本を売ったり文章を書いたりします。好きなものは形のいい松ぼっくりです。よろしくお願いいたします。