1年半かけて通って決めた、十日町への移住【ADDress会員インタビュー】瀬下雪絵さん

移住と言えば夢に溢れて聞こえるかもしれませんが、移住するまでの道のりは課題に溢れています。たとえば家を探そうにも、地元住民の紹介でしか家を探せないという地域があるのも実情です。となるとまずは地元住民と関係を築く必要があります。もちろん、そういった悩み以前に、日本全国2,000近くもある市町村のどこに住むかという段階で、夢心地から醒まされるということもしばしばあるでしょう。

さて、今回お話を伺った瀬下 雪絵さんは、ADDressを使って移住先を決めた会員さんです。建築士として神奈川県横浜市にある会社に務めていた彼女は、コロナウイルスの流行を機に2021年の10月からADDressを始めました。移住先探しがその大きな目的でした。

1年半ほどをかけて、瀬下さんは納得のいく移住先を見つけました。移住先の地域だけでなく、家も職も見つけ、地元の方との関係も築いてきました。そして2023年の4月、ついに移り住む予定とのことです。その移住先とは、日本有数の豪雪地帯であり「大地の芸術祭」の舞台としても知られる新潟県十日町市です。

ちょうど十日町A邸に滞在していた瀬下さんからオンラインで、移住先を決めた考え方などについてお話を伺いました。

移住先探しや建築の勉強のためにADDressを始めた

―――― なぜADDressを始められたんですか?

昔から移住を考えていたんですよ。自然が好きなのでもっと山の近くに住みたいなって。

それにコロナによる自粛を機に、認知症を患っていた母が自宅から出なくなり鬱状態になりました。そんな母を季節の良い時だけでも生まれ故郷の新潟のあたりで過ごさせてあげたかったんです。自分も母とできる限り一緒に過ごしたいということもあって、新潟への移住を真剣に考えるようになりました。

当初は母の実家周辺への移住を検討していました。でも市役所の移住相談窓口で話を聞いたりもしましたが、どうもしっくりこなかったんです。田舎で自然もあるし親戚もいるのに、何かが違うって。

それで違う場所も検討した方がいいのかもしれないと思って情報を集めている中で、ADDressを知りました。仕事の都合で1か月フルでは使えないけど、いろんな地域に行ってそこで暮らしている人のお話を聞けるのが良いなと思いました。観光というよりも実生活を見ることができるじゃないですか。

なのでADDressを始めたのは、移住先探しという目的のためでした。元から「移住するなら新潟に」と考えていましたが、他の地域も見ることで納得して移住先を決めたいと考えていました。

―――― 始めるにあたって不安などはありましたか?

不安ということではないですが、最初は限られた日数しか使えないのがもったいない(※当時は月額44,000円で毎日使えるプランのみでした)と感じていました。だけど、建築士という仕事柄、ADDressの家を周るのは古い建物の再生についての勉強になることに気づき、悪くないなと思うようになりました。それで、移住先探しだけではなく勉強という目的も持つようになりました。

不安をあえていえば、どう会社と交渉するかということですかね。なので上司と交渉する前に、ADDressをやる理由などをA4で1ページ半ほどにまとめたんです。いろんな建物を見るから仕事にも活きるはずとかなんとか。それを上司に渡しました。そしたら「別にいいんじゃないの。やってみれば?」とあっさり許してくれました。おかげで月に2週間、拠点で仕事しながらADDressを利用できるようになりました。

リノベーション専門の建築士という仕事

―――― そもそも瀬下さんがされている建築士とはどのような仕事内容なんですか?それに建築関係の仕事は現場に行かなければいけないイメージもありますが、リモートでも可能なのでしょうか?

私は建築士のなかでもリノベーション専門の建築士をやっています。仕事としては、お客様との打ち合わせやプランニングをしたり、図面を描いたり、あとは現場の職人さんへの指示を出したりといったことになります。

私も建築の仕事、特に職人さんとの連携がリモートでできるとは思っていなかったんですよ。でも、コロナになってから昔ながらの職人さんも、仕事でスマホやタブレットを持ちLINEを使うようになったんですよね。施工上の質問も、現場の写真を撮ってLINEで送ってくれたりとか。だから年配の職人さんにもオンラインで指示が出せるようになりました。

家を生き返らせることがリノベーションのやりがい

―――― 個人的に伺いたいのですが、家をリノベーションする喜びはどのようなところにあるんですか?

やはり、家がもう一度利用されるというのが嬉しいんですよね。

建物って人が住まなくなると一気に傷むんです。そうなると壊して処分されてしまうことも多い。日本って、特に20年くらい前までは、古い家は壊して新築を建てる方が良いという時代だったんですよ。リノベーションという言葉が一般的に認知されてきたのはここ10年くらいの話です。

でも壊されてしまったら、家に宿っていた思い出なども消えてしまいますよね。私としては古い家や思い出が引き継がれて、さらにはその家で新たな生活がまたスタートしていくというのが嬉しいんです。

―――― 止まっていた家の時間が動き出すというような。でも、使われなくなる家というのはどうしても増えていきますよね。

そうですね。そういう家が一軒でもなくなるようにという想いでやっています。建物は人が住んで初めて生きるんです。

それに、仮に人が新たに住まないとしても材料を再利用できれば価値になります。日本在来の木造建築の良いところは材料をバラして再利用できるということなんです。それをただただ壊して捨ててしまうのは本当にもったいないことです。

十日町への移住を決めるまで

―――― 十日町への移住を決めた経緯について伺いたいです。

私、趣味が登山なんですよ。とくに沢登りというジャンルをやっています。渓流沿いに、道のない沢を進むんです。十日町からも近い上越地方には面白いコースが多くて楽しみなんです。

あと、ご飯が美味しい。母の実家が十日町と同じ新潟県にあって子どものころから何度も来ていたからか、食事が口に合っているんです。特別な食材があるというわけではないんですが、味付けが慣れ親しんだものなんですね。

そしてなにより、家守さんや地域の方たちがとても協力的なんです。何度も十日町邸に通ううちに、家守の伊比さんがいろいろと地域を案内してくれました。そして地元の方たちとも交流をもつようになって、一緒に山菜取りに行ったりしました。地元の方たちの生の声を聞いて、この地域なら移住しても違和感がなさそうだなと思えました。

―――― 十日町というと冬場の雪がかなり積もると聞いたのですが。

私としても雪は心配な点でした。

それで、去年の冬に十日町に滞在して、実際に大雪を体験したんです。背丈を超えるぐらい積もりましたね。車は隠れてしまいました。でも、これくらいの量であれば大丈夫そうだと思ってしまったんです。MAXでこれなら大丈夫かなって。

―――― 背丈まで積もっていても大丈夫と思ったんですね、すごい。

十日町って雪が降っても意外と気温が高く暖かいので、雪は凍ることなく比較的すぐ溶けるんです。だから冬は雪というよりも水の世界という感じですね。道が水浸しなので長靴が必要ですけど。

―――― 逆に夏は過ごしやすいんですか?

日中はすごく暑いですけど、夜はエアコンなしで暮らせます。

ちなみに私の住むところは、中心部から少し外れた集落なので、虫もそれなりに出ます。でもこればっかりはしょうがないですね。虫が無理では田舎には住めないですからね。

田舎とは言っても適度な田舎です。中心部に出れば大きいスーパーもあります。東京に行くにもそんなに遠くないんですよ。最寄りの土市駅を8時半に出たら、11時半には横浜の方の職場に着きます。午後からの打ち合わせには間に合うんです。

他の地域もいくつか見ましたが、いろいろな要素やご縁が重なり、十日町が一番気に入りました。それで移住を決めたんです。今年の4月から移る予定です。

瀬下さん流、移住先を探すためのコツ

―――― 移住先をうまく決めるにあたって、コツなどあるんですか?

私の体験から言えることとしては、まずは定期的にその地域を訪れることです。可能であれば四季すべてに行ってみる。私も十日町は春夏秋冬すべて来たことで、ここで暮らしていくことのイメージがより湧きました。

あと、一度に5日間くらいは滞在したいですよね。そのくらい時間があれば、土地をいろいろと見て回ることができるでしょうから。私は散歩が趣味なので、毎回けっこう広い範囲を歩くんです。ちなみに田舎は夜になると真っ暗で足元が見えないということも多いです。なので私は散歩用にヘッドランプを持つようにしていました。

食事については、必ずお昼は外食するようにしていました。地元の方たちが食べているランチを食べるとだいたい物価の相場が分かるんです。この値段でこんなに食べていいんだ、と驚くこともあります。いわば生活の視点で地域を見るということですね。

リノベーションによる場づくりという夢を叶えていく

―――― 移住後の生活はどうされるんですか?

すでにこれまでの会社は退職したので、フリーランスの建築士としてやっていく予定です。当面はいくつか東京や神奈川の仕事が残っているので引き続きADDressを使いながら十日町と行き来することになるはずです。

あとご縁があって、4月から地域おこし協力隊として活動することになりました。ちょうど建築知識のある人を募集していたんです。私の夢として、田舎の古い家をリノベーションして人が集まる場所づくりをしたいということがありました。地域おこし協力隊としては、その夢にまさにマッチすることをしていくはずです。

―――― 移り住む家はもう見つけたんですか?

はい。でも自分で空き家バンクや市役所の移住相談を周ったりもしたんですが、あまり案件が出ていないんですよね。結局、地元の方に紹介してもらいました。それが一番安くて早い方法です。

家を紹介してくれる地元の方と関係を築くためにも、一か所に長めに滞在しやすいADDressは向いているなと思います。

―――― 移住探しという当初の目的に沿って、ADDressをとても有効に利用されていますね。

そうかもしれません。初めに目的をしっかり持っておいたのは良かったなと思います。漠然と過ごすだけでなく、積極的に家守さんや地元の方とコミュニケーションを取るきっかけにもなったので。

―――― 最後にADDressを始めるか悩んでいる方にメッセージをお願いいたします。

とりあえずやってみればいいんです。悩むよりも行動です。嫌だったら辞めればいいんですから。

会社から許可が出るかどうかと悩むより先に申し込んでしまうのもいいかもしれません。申し込んだら、どうやって説明すれば許してもらえるかを考えるはずですから。私も先に申し込んでから上司に話したタイプでした。

あと目的を持つのも大切です。なぜADDressを使うのかという目的です。滞在できる家も全国に200か所以上あって、どこに行くかを考えるのは思ったよりもストレスです。でも目的があれば、自然とどういう場所に行きたいのかが分かってきます。目的を持つのはおすすめしたいです。

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 瀬下さんのポートフォリオ

この記事を書いた人

佐伯 康太

25歳・神奈川県横浜市出身。 旅をしながら、作家・ライターと選書家を志して活動してます。 ADDressは、地域や日本のことを直に見て知らなければならないと考え、2021年9月より利用。道に迷っても「どこかには着くから」と地図を見たがらない困った癖があります。