参加することでサービスをアップデートし、化学反応を起こす【ADDress家守インタビュー】静岡榛原A邸 ショウキチさん

ADDressの特徴は均質化されていない滞在体験。

観光だけではなく、家守やその土地にいる方々、同じようにさすらう会員同士の偶然の出会いから始まる交流の楽しさ。

家々の個性や偶然性を楽しむことこそが、このADDressのサービスを満喫するコツです。

家の個性を形にする、家守の存在。

今回はゲストハウス「ゆる宿Voketto」との提携拠点でもある静岡県榛原(はいばら)A邸の家守、ショウキチさんをご紹介します。

学生時代にギター片手に世界一周の旅に出かけ、DIYに興味を持って榛原の築140年の古民家を自らリノベーションしているショウキチさん。

大工、木工職人、フラメンコギタリストの顔も持っています。

多彩な家主、ショウキチさんはADDressとどのように出会ったのでしょうか。

(ギターを持ち世界中を旅したショウキチさん。フラメンコギタリストとしても活動中)

何でも自分でやってみようとする川根本町の人たち

榛原A邸は川根本町という町にあります。

私は転職を機に川根本町に暮らしはじめました。

仕事で地域の人と関わるうちに、面白くて魅力的な人が多いことに気づき、どんどん魅かれていったのです。

川根本町は自然豊かな地域ですが、魅力は自然よりも、そこに暮らす人にあります。

何でも自分でやってみようという方が多いですね。

例えば、近所に大学の数学の教授が住んでいて、黄金比やフィボナッチ数の研究をしながら、それを用いた建築や音楽、美術などのアーティスト活動もしています。榛原A邸の庭にも地元の人たちと作った先生の作品が展示してあります。

その先生に刺激を受け、元々木工を趣味でやっていた大工さんも幾何学的な作品を作るようになったりしています。

実際にここで暮らしていると、新しいことに挑戦する人や、自分が持っている知識や経験を循環させて地域を盛り上げていこうと考える方が多いように感じます。

(庭にある竹のオブジェ。黄金比で作られています)

この町はもともと温泉のある観光地であるほか、林業やお茶の栽培もしていました。

川根茶というと静岡茶の中でも最高ランクです。

今は人口が約6,200人と、かつて商売がさかんだったころの隆盛はないものの、そのルーツがあるからか、商売マインドを持っている人が多いですね。

良い意味で一匹狼というか、あまり周りへ干渉せず、趣味に集中できるような人が多い。

こだわりがある人が没頭できて、それを許容する雰囲気が町にはあります。

大工さんで、ひのきを削ったかんなくずを糸にしてジャケットに織り込んだ人もいるんですよ。

アイデアを形にしようとする。ユニークで面白いじゃないですか。

学校も面白いんです。この町唯一の公立高校、川根高校では県外からも「留学生」として生徒を受け入れております。ゆる宿Vokettoでも教育委員会の人と計画して、そういった留学生向けの交流会を先日実施しました。地元民とも交流できるように、夏には流しそうめんも企画しています。

地域学習の一環で高校生からインタビューされて話したことも。 私自身、いい学校に行って安定した企業に就職をすることが正解だとは思っていないので、いろいろな生き方や価値観があることを自分の体験から伝えられればと協力しました。

つい先日も、高校生と地元企業がコラボしてロールケーキの開発をして商品化されたので、お客さんの反応を見ながらゆる宿Vokettoでも仕入れようかと思っているところです。

高校時代から新しい価値観に触れる機会や、新しいことに挑戦することで、川根本町のマインドが引き継がれ、地域が盛り上がっているのかもしれませんね。

(リノベーションされた屋内。高度な技術が必要な継手の柱もある)

大工さんの作業を手伝いながら自分でも覚えた

私自身も、川根本町に住む友人に「一軒家を借りて自分でリノベーションして住んでいるよ」という事実を聞かされ、自分もやってみたい!と自由にDIYできる物件を探し始めました。そして築140年の古民家が見つかり、学生時代からいつかやってみたいなと憧れていたDIYを始めました。

憧れの発端はテレビ番組。空間が変わっていく様子を見るのが楽しくて、劇的BeforeAfterとか、鉄腕DASHやボンビーガールをよく見ていたのです。

考えてみたら学生時代から体育祭や文化祭でも内装や設備を考えたりして。好きだったんですね。

このゲストハウスを作るときも、最初は地元の大工さんに依頼して、作業を手伝う中で、基本的な家の構造や大工用語、道具の使い方を覚えていきました。改修工事がひと段落して、大工さんから「自分でやるのが一番勉強になるから、あとは自分でやってみなよ」と言われ、それからは自分で改修したところを大工さんに見に来てもらい、「ここはこうした方がいい」「こっちから始めた方が最後きれいにおさまる」などのアドバイスをもらっていました。

ちょうどコロナの時期が重なったので時間もあり、コツコツと自分で直せるところに手を入れていきました。離れの一室をデザインして、解体から仕上げまで一人で完成させた時「これぐらいできれば仕事できるんじゃない?」とお墨付きまでもらいました。

ADDressの価値観に共感し、提携へ

きっかけは静岡県の新規事業補助金のフォローアップセミナーで静岡蒲原A邸の家守、コーセイさんと出会い、ADDressの話を聞いたことでした。

早速ADDressの社員の方に話を聞いてみると、ADDressのミッションと自分の価値観が似ていたんです。

関係人口を増やしたい、地域を活性化したい。そのために人が交流したり、出会う仕組みを作りたい。

まさに自分がゲストハウスを通じてやっていることでしたね。

家守の仕事もゆる宿Vokettoでやっていることとほぼ同じだったので、2021年1月には提携してADDressの会員を受け入れるようになりました。

交流の中から生まれたアイデアが形になる

ADDressを始めてみて、普通の観光客と違うと思ったのは、半数くらいは「ふらっと」来る方だという点ですね。

どこに行くかを予め決めず、家守や地元の人に聞きながら訪れる場所を決めようというスタンス。

滞在期間も長めで2~3日から1週間程度の方が多いのも特徴です。

ホッピングに慣れているからか、「情報や必要なものは現地で調達しよう」という気持ちなのかもしれません。

ゆる宿 Voketto(静岡榛原A邸)には宿泊する人だけではなく、地元の人もよく訪れます。

タケノコが採れたからと持ってきてくれたり。BBQを楽しみに来たり。

交流する中で、いろいろな体験ができたり、ものが生まれていく過程を楽しむこともできます。

実際、地元の人が創作したものに、ADDress会員の意見が加わって商品が生まれたこともあるんですよ。

鹿の角を使ってファイアースターターを作っていた地元の人に、仕事で縫製工場を回っていた会員から「ボタンやアクセサリーも作れるのでは?」というアイデアが寄せられ、商品化もされました。

(鹿の角を使ったファイアースターターとアクセサリー)

他にも、ウィスキーに詳しくてアイリッシュ音楽をやっている会員の方が「ウィスキーの美味しい飲み方講座」と「アイリッシュ音楽演奏」を披露してくれたり。ウッドデッキを作るときにインスタで手伝ってくれる人を募集したら、ADDressの会員の方が友達を連れて来てくれて一緒に作ったこともありました。

楽しそうなことをやっていると、自然と人が集まってくるんですよね。

訪れた人には、町を消費する感覚よりも、参加してもらう感覚を楽しんでいただけるといいなと思っています。

その他、薪割りや火起こしを体験したり、焚火を楽しむこともできます。このあたりは夜が暗いので、星がとても綺麗に見えますよ。

現在の環境省主催の全国星空継続観察の結果、「澄んだ星空」全国2位に選ばれており、完全予約制で天文台で星を見ることもできます。

(庭では焚火も可能。それを楽しみに来るリピーターもいる)

インドア派でゆっくり過ごしたい方には、2000冊以上の本や漫画が置いてあるスペースがおすすめですね。本棚の傍らには作り付けのベンチもあるので、のんびりと読書を楽しんでいただくこともできます。

思い思いの楽しみ方ができる場所です。

(まるで図書館のような蔵書数。子どもの本から漫画から、一日読み耽ることもできる)

鉄道の旅と美肌になる温泉、絶景のカフェ

周辺のおすすめスポットとしては、大井川鉄道のSLやトーマス列車『南アルプスあぷとライン』への乗車が人気です。

榛原A邸の最寄り駅である青部から2駅先の「千頭」駅では「ゆるキャン△」という漫画の10~11巻に登場した「cafeうえまる」のダムカレーが食べられますよ。

あぷとラインの奥大井湖上駅はエメラルドグリーンの湖上に浮かぶ島のように駅があり、珍しい景色が楽しめます。

(「COOL JAPAN AWARD 2019」を受賞したこともある奥大井湖上駅。絶景が人気)

温泉好きな方には接岨峡温泉や寸又峡温泉があります。アルカリが強く、お肌がツルツルになると評判ですよ。

ロケーションが素敵なカフェ、「KANATA COFFEE」もおすすめです。

金土日の営業になりますが、川を一望できる崖の上にあり、景色のよいところでオーガニックのコーヒーが楽しめます。

3月は河津さくら、5月はお茶の新芽の鮮やかな緑が綺麗です。家には電動アシスト自転車もあるので、自転車で巡ることもできますよ。

仕事や趣味をミックスして、化学反応を生み出していきたい

今後は活動とそこに集まる人の仕事や趣味をミックスして、もっと人を巻き込んで化学反応を生み出していきたいと思っています。

具体的には、会員と一緒にADDressの家の開発を考えてみたい。

ホッピングする人にとって、ある家から次の家に移動するまでの距離が長いため、その中間地点にもう1件滞在できる場所があったほうがいいな、と思えることはある気がします。例えば静岡から名古屋に行くまでに、もう1軒家があるといいなとか。

利用者にとって使いやすいサービスを、利用者とともに作り上げていくという取り組みが面白そうだと感じます。

サービスを一方的に享受するのではなく、参加しながらアップデートしていく。

自分が加わると愛着も湧いたり、知人にもおすすめしたくなると思うんですね。

私は「何かをしたからいくらを支払う」という、その場の往復で終わるような取引にはあまり興味はないんです。

それよりももっと大きな、誰かに提供した情報や技術や体験が、巡り巡って評判になり、お客さんを呼んでくる、そういった循環の輪が回るようになればいいなと思います。

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ショウキチさんへ取材を通じて抱いた印象は「料理からDIYからギターから畑まで、何でもできるスーパーマン」でした。

「リノベーションが完成するまでにどのくらいの期間がかかりましたか?」の質問に、

「まだ未完成。やりたいことがたくさんあるんです」と答えるショウキチさん。

竹のオブジェに沿って放射線状に畑を作ろとハーブやブルーベリーを植え始めたり、屋外にキッチンスペースを作ってピザ窯を作ろうとされているそうです。

複数の空き家物件もあるので、もっとたくさんの人を迎え入れられるように施設を増やしていきたいとも。

訪れるたびに進化する、生命が宿っているかのような家。

庭にそびえる竹のオブジェは、広がりながらゆっくりと循環する象徴のように見えます。

この記事を書いた人

高石典子

2020年8月よりADDress会員。月の半分はADDressの家を巡り、半分は自宅で過ごす。中学・大学生の2人の子の母。フルリモートで仕事をしており、母親業もリモート化できるのではと実験中。仕事はキャリアカウンセラー&ライター。喫茶店での読書と銭湯後の一杯が至福のひととき。得意技は「ポジティブ変換」。